万物理論 (創元SF文庫) の感想

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参照データ

タイトル万物理論 (創元SF文庫)
発売日販売日未定
製作者グレッグ・イーガン
販売元東京創元社
JANコード9784488711023
カテゴリジャンル別 » 文学・評論 » 文芸作品 » 英米文学

購入者の感想

"だから宇宙はただひとつの法則に従うのーひとつの万物理論に。宇宙はひとりの人間によって完全に説明される。"1995年発刊の本書は、著者曰く"主観的宇宙論"シリーズの1冊にして、無政府状態の島国国家を舞台に展開する緻密なギミック説明や意表をつく展開が知的めまいを引きおこすハードSF傑作。

個人的には『宇宙消失』『順列都市』と、今さらながら今年はオーストラリア生まれの覆面作家にして、ハードSFの代表的作家として受賞歴多数の著者作にハマってきている事もあり、本書も手にとってみました。

さて、そんな本書は第一部で"片目にAI付きのカメラ、腸にはメモリチップを埋め込んだ"映像ジャーナリストである主人公の人柄や時代設定を紹介した後は、主に南太平洋の人工島、移住者が国民の大半をしめ、無政府状態ーストートレスで開催されるアインシュタイン国際会議での【『万物理論』の発表を巡る研究者や暗躍するカルト集団とのやりとり】が描かれていくのですが。

執筆にあたっては関連分野の【学会誌などを事前にしっかり読み込む】事で有名な著者らしく、物語展開としては【前半スロー、後半は怒涛の展開!】と読みやすいものの、全体としては【学会でのスケールの大きな理論物理学の発表を聴講しているような】不思議な読後感でした。(だが、そこが"多少よくわからなくても、すっっっごくおもしろい"著者らしくて良い!)

一方で、本書では2010年発売のiPadに先駆けて、ノートパッドといった携帯デバイスが登場する他、様々な攻殻機動隊的な近未来ギミックが(相変わらずの)詳細な説明付きで描かれていますが、こちらに関しては近未来小説の宿命かもしれませんが【圧倒的にイメージが追いつけないわけのわからなさ】をSFに求める私には、最近の【WEBニュースで読んだような既視感】があって、本書に関してはちょっと残念でした(それとは別に、科学技術の発展によるジェンダーや身体論は興味深いです)

SFに科学要素や学術リアリティーを求めるウンチク好きな誰かへ、あるいは未来社会の倫理観を考えたい方へもオススメ。

あらすじについては他の人もずいぶん書かれているので割愛します。
物語の前半、他者によって定義付けられる事に倦んでいる人々が数多く登場する一方で、
中盤からは宇宙全体のあらゆる法則を包括するたった一つの理論TOEと、それを完成させようとする物理学者、TOEによる宇宙の説明あるいは”定義づけ”を拒否する無知カルトや原理主義者、またそのいずれとも違った特殊なグループがそれぞれの思惑とともに絡み合う絶妙な構成になっています。(厳密にはTOEが世界のありとあらゆる事象それ自体を定義付けるというわけではないようですが)
自己や他者が認識し認識されるという関係性の中でのみ存在しうることやあらゆる事象のリンクとしてプレ宇宙に言及しているあたり、
これまでのイーガン作品における主要なテーマであった「自己とはなにか?」という普遍的な問いに加えて、「自己を含むあらゆる実体はそれそのものでは存在せず、決して逃れることのできない関係性の中に編みこまれた一点に過ぎない」という関係主義的なテーマも盛り込まれていて、社会学の視点から見ても非常に面白いSFなのではないかなと思います。
理論物理や数学が好きな人だけでなくむしろ西洋哲学や社会学に興味を持つ人にぜひ読んでもらいたい一冊です。

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