喧嘩両成敗の誕生 (講談社選書メチエ) の感想

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参照データ

タイトル喧嘩両成敗の誕生 (講談社選書メチエ)
発売日販売日未定
製作者清水 克行
販売元講談社
JANコード9784062583534
カテゴリジャンル別 » 社会・政治 » 法律 » 法制史

購入者の感想

喧嘩両成敗は私も昔から疑問に思う裁定であったがその根本には日本人の秘められた残虐性にあることが示唆され納得がいく内容だった。
近代に入り坂口安吾を初めとする文化人が醸してきた「日本人は欧米人より穏やかで慎み深い」というような作られた日本人観に今の我々は得心しているところがある。しかし、芸能人のスキャンダルや虐待事件などが起きるとその関係者全員に罪の要素があるかのように詮索しネット上で吊し上げるという風潮はまさに喧嘩両成敗の指向に他ならない。いわんや、先進国において未だに死刑制度を残してるのは正にこの本の言うところの自らの残虐性を納得させるための折衷を渇望する日本人の嗜好の由縁と思わざるを得ない。
礼儀正しく他人を尊重し物事を穏やかに解決しようとする日本人、そんなものは近代以降に無理矢理刷り込まれた仮面に過ぎないと我々は自覚すべきなのかもしれないと考えさせられる名著である。

中世には「喧嘩両成敗」法があり、日本人は和を尊び争いごとそれ自体をよしとしなかった・・・こういった通俗的説明がなされることは多い。
だが、本当に中世の人々は平和愛好的だったのであろうか。
本書では、紛争をめぐる人々の考えを丹念に紐解き、通俗的理解とは全く異なる「中世の紛争観」を描き出してくれる。

中世の人々は、実は名誉意識が非常に強く、すこし侮辱されただけで殺人事件が平然と勃発するような時代であった。
復讐も公式・非公式に認められており、さらに切腹によって仇討を代行してもらう風習などまで存在していた。

人々の集団への帰属意識は強く、同じ集団の別のものに代わりに復讐することもざらであった。
それが発展すると解死人という制度も出てくる。
一方で、落ち武者や流人は「人でない」とされ、平然と危害が加えられる慣習であった。

喧嘩両成敗は、基本的には「やられたらその分だけやり返す」という衡平感覚に基づいていた。
一方で、「喧嘩を吹っ掛けられても応じなければ一方のみ成敗する」という但し書きがついていることも非常に重要で、要はなるべく喧嘩を抑制したいというギリギリのラインで喧嘩両成敗は作られているのである。

自力救済、復讐、衡平といった問題が中世の人々にもかなり深くあるんだなということが見えてくる本であった。

 面白い! 著者はまだ若いのに文章がとても上手い。些細な口論が双方死傷者を出す大乱闘にエスカレートする様子がいきいきと描かれていて滑稽ですらある。そういったエピソードの描写に限らず論考の文章も平易で読み易い。一般読者向けの本の執筆は今回が初めてということだが、とても信じ難い。

 著者によると、喧嘩両成敗法は、室町時代の終わり頃にその萌芽が見られ、戦国時代の分国法として全国的に普及するが、江戸時代には制定法としては消えていくという。著者は、室町時代の京都や奈良に住んでいた公家や僧侶の日記を素材とし、そこに記されている様々な出来事と、それに対する幕府の措置や人々の感想の記述から、喧嘩両成敗法が生まれ出た社会的背景を明らかにしようとする。

 著者の強調点は以下の4点。第1に、当時の社会や人々の心性を抜きに、喧嘩両成敗法を語ることはできない、ということ。第2に、喧嘩両成敗法を社会の中で形成された紛争解決の法慣習の蓄積の延長に位置づけるべき、ということ。第3に、喧嘩両成敗法を中世社会全体の紛争解決策の中の1つとして考えるべき、ということ。第4に、喧嘩両成敗法の限界面にも目を向けるべき、という点。

 私自身は、公権力の支配が不完全な世界における秩序形成、という観点から本書を読んだ。そういう意味でヤクザ世界での秩序形成との類似性などに興味をもった。

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