チベットの先生 (角川ソフィア文庫) の感想

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参照データ

タイトルチベットの先生 (角川ソフィア文庫)
発売日2015-02-25
製作者中沢 新一
販売元KADOKAWA/角川学芸出版
JANコード9784044094799
カテゴリ »  » ジャンル別 » 文学・評論

購入者の感想

本書は以前「智慧の遥かな頂」という題名で出版された本の文庫化です。私の記憶ではいくつかの魅力的なエピソードがカットされてしまった気がするのですが、それを補って余りあるのが、新たに加えられた中沢新一氏の序文。80年代、亡命地で出会った偉大なチベット僧の姿を敬意を持って紹介しているのですが、これは中沢氏の最も素晴らしい文章の一つだと思う。現代思想を語るときはちょっとアクロバテイックに過ぎるように感じる中沢氏の語り口が、このチベットのラマたちを語る時には、ひたすらな敬意と、このような文明が失われて行くことへの哀切な感に満ちており、チベット仏教文明の最も純粋で偉大な精神を見事にとらえています。

そして、ケツン・サンポ氏の回想録は、中国の侵略以前の、信仰と修行、そして真の意味での知恵を求めることが人間の最大の価値であった文明が確かにこの世界に存在した事を私達に教えてくれます。特に、死期を悟った時に死を少しの恐れもなく受け止め、己の体を虹に変えて転生するラマの姿は、奇蹟談にありがちな神秘主義はみじんも感じさせず、ただ、このような世界がありえたのだという不思議な感銘を与えてくれます。

だが、中国の侵略はこの古代からの文明を破壊しようとしました。強力な侵略軍に乏しい武器で闘うチベット兵士と、彼らに祝福をささげるラマの姿は深い感銘を呼びます。そして、たとえ征服されても、チベット人たちは「毛沢東や朱徳のような共産党の指導者たちが、どんなに自らの偉大さを誇ったところで、そんなものは、ダルマの真理の前には、己の醜い権力欲を隠すための、みじめな奴隷の仮面にすぎない」(本書229頁)ことを見抜いていました。いかなる暴力も滅ぼすことができなかった偉大な文明の記録がここにあります。

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KADOKAWA/角川学芸出版から発売された中沢 新一のチベットの先生 (角川ソフィア文庫)(JAN:9784044094799)の感想と評価
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