From A Buick 8: A Novel の感想

「見た目はクルマ(Buick8)だが、たまに人を喰ったりする恐ろしい謎の物体」と関わりを持ってしまった警察官たちの物語です。
　父を失った高校生Nedが、父の勤務していた警察署で働き始めるところから物語は始まり、父の死の真相を知ることに躍起になるNedに、彼の父の元同僚たちが昔話を聞かせていくという構成になっています。Kingが著書”On Writing”p.275で”a strong novel about how we hand down our knowledge and our secrets”と形容しているように、彼らがNedにどのように秘密を語っていくかがこの小説の醍醐味です。
　しかし、元同僚たちでさえ理解できない理不尽なことが多過ぎるため、Nedは苛立ち、「ある行動」に出てしまいます。「この世の理不尽、または理解の及ばない事柄と、どう向き合うか」が、この小説のもうひとつのテーマと言えるでしょう。
また、「見たり感じたりすることの出来ない因果の連鎖」「人間の成長と成熟」「プロとして職務を遂行すること」という観点からの描写もあり、味わいのある小説です。
　Kingとしては珍しくペンシルバニア州が舞台の小説ですが、Kingはこの小説を書く際に実際にペンシルバニアの警察官たちに話を聞きに行っています。それは警察官の直面する事件の生々しい描写にリアリティを持たせる上で存分に生かされています。
　ちなみに、ペンシルバニアはアーミッシュの多く住む地域です。アーミッシュの知識があるとより楽しめるでしょう。