幾何学と空間 の感想

本書は一言でいえば幾何学と空間的直感との関連を述べたものである。と言うは易し行うは難し。

幾何学というのは西洋思想で向こうの宗教や哲学とも強い関連がある。日本でも江戸時代は幾何学なんて、こんな簡単なことはやって意味があるのかなどと幾何学の証明が軽んじられたらしいが、明治から戦後20年間ぐらいは古典的なユークリッド幾何学や解析幾何学がたしなまれたものだが、現代化が叫ばれた時期からしばらく経って、結局現代化も古典的な幾何学も共に捨てられ、最近の人は理科系であってもこのような幾何学の数奇な運命や歴史をあまり知らずに非ユークリッド幾何学成立からヒルベルトの幾何学基礎論樹立までの内容もろくに学ばずにきているのではないか。数学に限らず、自然科学全般にいえることだが、一旦、理論が完成してしまえばそこに至るまでの口舌の争いは歴史の中に葬られ、教科書に書かれるのは舗装されたきれいな道路に他ならない。最近は幾何学もろくに教えなくなったが、その理由にユークリッド幾何学からヒルベルトやブルバキなどに至るまでの歴史というものもある。日本の老科学者による古典的幾何学を懐古するような書物は多いが、本書はあくまで古典であるから、その歴史的位置付けをまず述べよう。