神の守り人〈下〉帰還編 (新潮文庫) の感想

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タイトル神の守り人〈下〉帰還編 (新潮文庫)
発売日販売日未定
製作者上橋 菜穂子
販売元新潮社
JANコード9784101302775
カテゴリ » ジャンル別 » 文学・評論 » SF・ホラー・ファンタジー

購入者の感想

 恐るべき圧制者になりかねないアスラの行く末を親身になって気遣うバルサとチキサ(アスラの兄)、タンダ(バルサの幼なじみの薬草師)がいる一方で、アスラの強大な力を利用しようとするシハナ(ロタ王国のカシャル<猟犬>の切れ者)のような人物がいる。それぞれの思い、思惑が交錯し、火花を散らす中、アスラはどういう道を選び取るか・・・・と、ストーリーのあらましはこんな感じかな。

 崖っぷちに向かってぎりぎりと追い詰められていくアスラの心の葛藤とともに、彼女の姿に重ね合わせるようにかつての自分を振り返るバルサの回想シーン。大きな力を手にしたアスラが、バルサの横顔に心細げな色が浮かぶのを見て驚くそのシーン。胸にきゅっとしみるものがありました。

 また、ロタ王国のタルの民が、第一次世界大戦に負けて窮乏するドイツ国民に、少女アスラが、当時のドイツ国民の期待を一身に集めたナチスの総統に重なる印象を持ちました。アスラの力はそれくらい圧倒的なものであり、だからこそ余計に、アスラの運命を変えたバルサの勇気と決死の行動が輝くのでしょう。この辺りの作者の、物語をぐいぐいと運んでいく筆力、話を引き絞っていく展開力、キャラを立たせる描写力は、いつもながら凄かった。先の「来訪編」との2冊、一気に読んでしまいました。

 <こうなったら、バルサやチャグムたちが、生きて行く道を、もう少し一緒に歩いてみようと思います。この物語、これからどう枝を広げ、どんな姿の樹になるのでしょうね>(本単行本の巻末に記された作者のあとがきより)

バルサにも、そして読者にも、ことの全容が明らかになる。
入り組んだ物語の、ことの顛末に向けて、読むほどに気が重くなるようだった。
大人たちの身勝手が見苦しくてならない。それぞれの言い訳はあるにせよ、自分の言い分だけを振りかざして押し通す者が多い。
畏ろしき神タルハマヤを身に宿したアスラはまだ幼い。バルサだけが、アスラを普通の子どもと同じように扱う。

掲げるものが、信仰であれ、正義であれ、復讐であれ、快楽であれ、人殺しは人殺しなのに。
バルサの悲しみが、胸にしみる。
なぜ、大人は子どもの笑顔を祈ってやるだけのことができないのだろう。
期せずして、差別の問題やテロリズムの問題をも考えさせられた物語だった。

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