刑法 (伊藤塾試験対策問題集:論文) の感想

本書は以下の特長があると思います。
１　高い信頼性
他のレビューにもあるように、記述はほとんど調査官解説や信頼のある基本書が
引かれていますので、信頼性は非常に高く、いわゆる「予備校本」とは一線を画しています。
なお、少々学説が古い気はしますが（行為無価値寄り）、それほど問題にはなりません。

２　見やすい図解があり、論点と結論が一目瞭然
当事者の関係図が付され、論点と結論を先出しにするなど、ぱっと見の使いやすさは
ここにも健在ということができます。加えて、論証も論理の流れを矢印で示し、
重要部分は青く示されているため、どこが重要かもすぐに判別がつき非常に便利です。

しかし、以下の欠点もあると思います。

１　刑法全体を１冊でまとめるのは無理
本来、重要とされる民法判例は、百選でさえ刑法全体で２００件あります。
確かに、この中でも試験的に重要でないものも含まれますので、全部が
必要というわけではありません。

しかし、本書の刑法全体で１００件という本数で、刑法全体を網羅するには
さすがに無理があります。おそらく本書では百選掲載分（後述するようにおそらく５版）
から重要な判例を選別したものと思われますが、いざ探そうとすると重要な判例が
見つからないことも珍しくありません。その場合は、百選など他の本を参照する
必要があり、本書だけで刑法全体はカバーできないので注意が必要です。

２　各自で関連判例の補充が不可欠
掲載されている判例は、いわゆる事例判決も少なくありません。
そうすると、関連する判例では結果が肯定されていても、少し事情が変わるだけで結果が
否定されることもいくらでもあり得ます。そのため、掲載判例を理解するのみではなく、
その判例の射程はどこまでなのか、常に検討する必要があります。

そこで同シリーズの行政法のように、関連の判例がまとめられていれば、
もっと良かったのではないかと思います。

３