クレイジー・ライク・アメリカ: 心の病はいかに輸出されたか の感想

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参照データ

タイトルクレイジー・ライク・アメリカ: 心の病はいかに輸出されたか
発売日販売日未定
製作者イーサン ウォッターズ
販売元紀伊國屋書店
JANコード9784314011037
カテゴリ »  » ジャンル別 » ノンフィクション

購入者の感想

アメリカ発の経済や文化が世界を席巻する「グローバル化」の流れが、精神疾患にまで及んでいることに興味を持ったジャーナリストによる、世界各地からの現地調査報告である。アメリカ発の「精神疾患診断・分類標準」(DSM)が世界に普及するのに伴い、現地の文化的・社会的特徴を無視した精神障害の概念と治療がもたらした災禍を追及している。

本書で取り上げているのは、香港における拒食症の流行、スリランカを襲った津波に伴うPTSD、ザンジバルの統合失調症、および日本のうつ病である。伝統的社会では、精神障害者は風変わりとは見られても必ずしも病気とは考えられず、地域社会に穏やかに受け入れらえていた。ところがグローバル化に伴い、「精神疾患は、欧米人が人間性の本質として価値を置くようになったものの対極にあるがゆえに、恐れられ、不名誉だとされてしまう」(本書p.198)のが序の口で、ついには薬漬けの治療でかえって難治性となり、悪化させてしまう。

その典型が、本書で取り上げている、日本における抗うつ剤の急速な普及である。1990年代までは、決して一般的ではなかったうつ病が、2000年頃から、大手製薬企業の啓蒙広告を主体としたマーケティングにより、一躍、社会現象といえるほど一般化していく。日本におけるSSRIの市場性を見込んだ欧米製薬企業のなせる業である。「うつは心の風邪」あるいは「新型うつ病」などと、劇的に治療のハードルが下げられ、簡単な問診だけで薬漬け治療が始まる。内海聡著『精神科は今日も、やりたい放題』『大笑い!精神医学』が曝露した通りである。抗うつ剤を含む精神疾患治療薬の多剤投与は、自殺の増大にも影響していることが疑われている。市民の「啓蒙」から始まり、依存性があり危険な薬剤の投与に至る「抗うつ剤マーケティング」は、欧米のタバコ会社が、発展途上国向けにタバコの売り込みに使った「悪魔のマーケティング」そのままである。

著者は、グローバル化に伴う世界各国での心理的ストレスを改善しようとしても、欧米のメンタルヘルスケア理論は解決にはならないと説く。「なぜなら、それ自体の原因の一部でもあるからだ」(p.300)。この結論は、日本における精神科医療の荒廃を的確に言い当てている。0

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