現象学という思考: 〈自明なもの〉の知へ (筑摩選書) の感想
参照データ
タイトル | 現象学という思考: 〈自明なもの〉の知へ (筑摩選書) |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | 田口 茂 |
販売元 | 筑摩書房 |
JANコード | 9784480016126 |
カテゴリ | ジャンル別 » 人文・思想 » 哲学・思想 » 論理学・現象学 |
購入者の感想
本書は現象学に関するフッサールの解説や哲学史的なアプローチを避け、認知科学をはじめとする現象学的思考の方法を説いたまさに現象学的思考の現代的意義を問う書物です。しかし、著者の思考の原点は、フッサール自体が現象学的な思考を哲学者の「共同研究」としてすべての哲学研究者が共有し、生活世界全体にそれを拡げていくことを提言していたことによります。したがって、フッサールは自己の書物が古典として研究され、いわゆる「フッサールの思想」として哲学史的に研究されることを望んでいたのではないということが著者の思考の出発点となっています。まさにこれは慧眼であり、現象学研究の現代的意義を問うものです。そして、現象学的思考の方法をフッサールが晩年に到達した「生活世界の現象学」から解いていきます。わたしたちの生活世界に関する認識の度合いにはさまざまな程度の差があることに注目し、自己が直接見ている世界の認識が濃度の濃い認識であるとすれば、見えない世界の認識は濃度の薄い認識ということになりますが、例えば宇宙の拡がりについても、日常わたしたちは宇宙の拡がりについて直接見ることはできませんが、見えない宇宙についても、ひとつの生活世界として認識することが可能であり、現象学的思考によってそのような程度の異なるさまざまな生活世界に関する認識の根拠を問うことができるのです。したがって、著者にとっては「自明性」・「明証性」が成立する事象の根拠を問う思考が現象学的思考となるのです。著者の説明は明快であり、現象学を知らない人に対して現象学への興味・関心を誘うさまざまな事例をとりあげて説明しているのが本書の醍醐味です。現象学の哲学史的・認識論的意義について知りたい人は、竹田青嗣氏の『現象学入門』が恰好の入門書になるでしよう。現代の現象学に関心あるすべての人に本書を薦めます。