なにも見ていない―名画をめぐる六つの冒険 の感想
参照データ
タイトル | なにも見ていない―名画をめぐる六つの冒険 |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | ダニエル アラス |
販売元 | 白水社 |
JANコード | 9784560038871 |
カテゴリ | ノンフィクション » 歴史・地理・旅行記 » 歴史 » 人物評伝 |
購入者の感想
絵を見るおもしろさを教えてくれる本をひさしぶりに読んだ気がします。書簡体、講演風、対話篇というふうに論文調でない文体を通じ、絵画そのものに何がどう描かれているのかに徹底的にこだわる姿勢から、思いもかけない解釈が示されます。コッサの「受胎告知」で最前景をカタツムリが這っているのはなぜなのでしょうか。ティツィアーノの「ウルビーノのヴィーナス」が左手でオナニーをしながらこちらを見つめているのは、何を表すのでしょう。だれもが見落とすような細部をもとに、その絵の意味をすっかり読み換えてしまう議論は、実に爽快です。
絵の典拠になるものを言葉で書かれた資料の中に見つければ安心してしまい、絵の特異さを凡庸な言語に解消してしまうような図像学を、著者はしばしば揶揄しています。といっても、この本は、むつかしいことなど考えずにすなおな心で絵を見さえすればいいんだよといった素朴さ(それは偽りの素朴さに過ぎないのですが)とは対極に位置します。やはりたいへんな学識が動員されているのですから。だいじなのは、絵の外側で証拠探しをするのもいいけど、もっと絵の中をちゃんと見ようよという態度です。
翻訳もよく工夫された本だと思います。著者が昨年59歳で亡くなったというのは残念なことです。『細部』など、この著者の代表的著作をフランス語で読みとおすのはたいへんそうですから、だれか美術史の専門家が翻訳をしてくれないものでしょうか。ここ十数年くらいの美術史のだいじな本ってぜんぜん翻訳が不足している気がしますが。
絵の典拠になるものを言葉で書かれた資料の中に見つければ安心してしまい、絵の特異さを凡庸な言語に解消してしまうような図像学を、著者はしばしば揶揄しています。といっても、この本は、むつかしいことなど考えずにすなおな心で絵を見さえすればいいんだよといった素朴さ(それは偽りの素朴さに過ぎないのですが)とは対極に位置します。やはりたいへんな学識が動員されているのですから。だいじなのは、絵の外側で証拠探しをするのもいいけど、もっと絵の中をちゃんと見ようよという態度です。
翻訳もよく工夫された本だと思います。著者が昨年59歳で亡くなったというのは残念なことです。『細部』など、この著者の代表的著作をフランス語で読みとおすのはたいへんそうですから、だれか美術史の専門家が翻訳をしてくれないものでしょうか。ここ十数年くらいの美術史のだいじな本ってぜんぜん翻訳が不足している気がしますが。