吉本隆明の経済学 (筑摩選書) の感想

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参照データ

タイトル吉本隆明の経済学 (筑摩選書)
発売日販売日未定
製作者中沢新一
販売元筑摩書房
JANコード9784480015709
カテゴリ »  » ジャンル別 » 文学・評論

購入者の感想

 この本は書名のとおり〈経済学〉に関する吉本の文章や発言を中沢が抄録したものだ。中沢は序文と、八章に分けられた各章の冒頭に短いコメントを寄せているほか、巻末にややまとまった解説を載せている。つまり、全編のほとんどが吉本の文章で構成されているわけで、こういった抄録本では編著者の目のつけどころと選択力がものをいうものだが、吉本思想の良き理解者である中沢は、筆者のような吉本ファンでさえ一度読んだだけで通り過ぎてしまいがちな文章の中から、重要な意味合いをもつものを丹念に拾い上げていて、この本を好編著としている。
〈経済学〉といってもここに集められた諸篇は、いわゆるの経済学すなわち金融・商品市場の動向についての言及や、グローバルな視点からの世界経済の傾向分析などといった対症療法的なエコノミックな文章などではない。かといって経済学史に関するアカデミックな研究論文でももちろんない。吉本にとっての〈経済学〉とは、ヒトは自らの生命を養うために身体と精神を総動員して自然に対して働きかけることから始めて、どのような経緯によって文化を形作り発展させたのか、またそれによって意識と無意識の狭間にどんな〈矛盾〉を抱え込むことになったのか、という思想的な課題をつきつめるための一分野にほかならない。いいかえれば、〈ヒトの実存とは何か〉といった根源的なテーマに立ち向かうための様々なアプローチの一つとして、〈経済学〉と名付け得るような考察がなされたということになる。
 その中でも筆者が特に感銘させられたのは、「第七章・贈与価値論」中の一篇「贈与論」である。この論考において吉本は、原始社会において何らかの〈霊威〉の付与に対する返礼としてあった「贈与」が、〈霊威〉を付与する側の「権威の版図」とでもいうべきものの強度の増大にしたがって、しだいに「献納」へと形を変えてゆくプロセスを見事に考察していて、アジア的デスポチズムの構造解明への糸口を鮮やかに提示している。さらにはまた、夫婦間の性行為が女性の懐妊・出産と確定的に結びつけられていなかった原始母系制社会における親族間の〈対幻想〉と〈共同幻想〉との関係性が、実にスリリングな様相をもって述べられていて、『共同幻想論』の思想的指針の正当性が証されているともいえる。

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