汽車旅の酒 (中公文庫) の感想

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参照データ

タイトル汽車旅の酒 (中公文庫)
発売日2015-02-21
製作者吉田 健一
販売元中央公論新社
JANコード9784122060807
カテゴリ文学・評論 » エッセー・随筆 » 著者別 » や・ら・わ行の著者

購入者の感想

『汽車旅の酒』(吉田健一著、中公文庫)は、旅と酒をこよなく愛した文士・吉田健一の旅と酒を巡るエッセイ集です。

「旅行をする時は、気が付いて見たら汽車に乗っていたという風でありたいものである。今度旅行に出掛けたらどうしようとか、後何日すればどこに行けるとかいう期待や計画は止むを得ない程度だけにして置かないと、折角、旅行しているのにその気分を崩し、無駄な手間を取らせる」。

「何もない町を前から探していた、と言うよりも、もしそんな場所があったらばと思っていて見付かったのが、八高線の児玉だった。・・・やはり、何もない上に、何かそこまで旅に誘ってくれるものがなければならないので、昔は秩父街道筋の宿場で栄えた児玉の、どこか豊かで落ち着いている上に、別にこれと言った名所旧跡がない為ののんびりしたい心地にそれがある。・・・こういう児玉のような町に来ると、やっと時計がカチカチ言うのが気にならなくなって、つまり、一人でゆっくり酒も飲める。・・・という風な優雅な考えに耽りながら、お風呂に入ってから宿屋の部屋で飲んだ。菊正の飲み残しがあったのでこれをお燗して貰い、それがなくなってから児玉で作っている千歳誉という酒を飲んだ。これは旨い酒である。例えば酒田の初孫や新潟の今代司と同じく、これもこの地方の需要を満すだけで、余り沢山は作っていないようであるが、児玉に行ったらこの酒を頼むといい」。

「旅行が好きな余りに、この頃は行商だとか、どこかの会社で出張ばかり命じられている社員だとかで暮せたらと思うことさえある。同じような景色でも、それが自分が住んでいる場所のであるのと、旅行中に眺めるのとで違うのだから不思議である」。

「いやになるまで飲むというのはその間が楽めるのみならず、二日酔いの頭を抱えた翌朝が雨だったりすると、ぼんやり雨だと思って外を眺めているのもなかなかいいもので、人間、そういう時でもなければ自分が確かに自分がいる所にいるのを感じるのは難しい。酒は一人で飲むのにも、誰か気が合った相手と飲むのにも適していて、一人で飲み屋で飲むのも、それ相応の味がある。これがよく知っている店でも、始めて入った所でも、それぞれ楽めるもので、何れも二日酔いの朝、外で雨が降るのを眺めている感じが時々、頭を掠める」。

「ベルが鳴って、汽車が動き出し、今と全く同じ具合に、フォームの柱が一本、一本、後退して行った。」(「酒を道連れに旅をした話」より)

終戦後の話です。作者の経験かも知れませんが、端的にこれは汽車に乗る者の見るものです。

読んでよし、見てよし、良い選集となりました。

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