現代アラブの社会思想 (講談社現代新書) の感想

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参照データ

タイトル現代アラブの社会思想 (講談社現代新書)
発売日販売日未定
製作者池内 恵
販売元講談社
JANコード9784061495883
カテゴリジャンル別 » 人文・思想 » 宗教 » 宗教入門

購入者の感想

アラブやイスラム主義が世界の波乱の目になっているので、ちょっと勉強しておこうと思って手にとってみた。コンパクトにまとまっていて読みやすいし、面白い。大佛次郎論壇賞受賞作品だけある。

本書では、アラブ社会の思想発展が行き詰まっていて、「イスラム的解決」という発想に陥りやすいこと,その一方で,この考え方は不満や反対表明の捌け口にはなっても,現実社会のガバナンスに関する解とはなり得ないことなど指摘されている。また,コーランのテキストを紹介しながら、終末論の思想を丁寧に説明し,アラブでよく見られる陰謀説について論及している。僕にとっては終末論は荒唐無稽であっても、それを宗教として信じる人々にとっては真剣且つ重大な問題である。

この本を読んで、正直、アラブ世界の先行きに暗澹たる気持ちになる。globalisationが叫ばれる時代にあって、アラブ世界はこれからもイスラム的発想を軸にしながら生きて行くのだろうか。2011年に燃え上がったアラブの春は民主化ではなくて、結局は、「イスラム的なもの」への回帰になるのだろうか。

 1967年に起きた中東戦争での敗北の地点から現れてきた知的動向を「現代アラブの社会思想」として捉え、詳述した著作。序でアラブ社会の現在としてエジプトの例を示したあと、1967年の敗戦後にマルクス主義を民族主義的に読み込んだ思想が社会批判論として登場し、PLOやPFLFといった組織が闘争を実践した後大衆の支持を失い、代わってイスラーム主義が社会批判論として勢力を伸ばし、やがてイスラーム過激派がイスラーム主義の信条の下でテロを実践するという一種の反復が起きていることを具体例に即して明らかにする。そしてイスラーム主義の背後で大衆の考え方を規定している要素として終末論があるとみて、ユダヤ教・キリスト教と共有する終末論、破滅と裁きと救済の図式を通覧した後に実際の文献を読み解いて現代に流通する終末論の典型を示す、といった内容になっている。

 一読して、現代に通用しているイスラーム主義というのはムハンマドの預言以来積み重ねられてきた歴史的な所産を、ほんの50年強ぐらい前に政治的に再解釈して広まったものなのか、という思いが浮かんだ。千年をゆうに超える智慧の遺産としてイスラーム思想には興味があったが、政治的な運動としてのイスラーム主義にはどちらかとしては受け取り手の現代人の志向の方を強く感じる。ここのイスラーム主義は、経典やイスラーム思想の著作を読んでいても理解しがたい部分なのだと思う。その意味で、読んでみてよかった。

 また、ここで描かれているイスラーム主義の世界観が、アメリカの世界観とよく通じ合っているように見えたのが、考えてみると不思議だ。世界を二分して固定し、白と黒の色分けで善と悪を設定しようとする思考態度に、共通点が見えた。この考え方の枠取りは、自分たちも良くやってしまいがちになる、ある種魅力的な形だが、それは夜の思考とも言うべきで、日が昇れば目に映るものには色彩が取り取りあるように、二分して固定した枠に収まらないことがたくさんあることを等閑視していると思う。

 現象として現れる出来事の背後で機能している考え方の典型が読み取れる一冊。

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