貨幣という謎―金(きん)と日銀券とビットコイン (NHK出版新書 435) の感想

市場経済における貨幣の役割について述べた良書。バブルやハイパーインフレがおこる仕組みについても、十分に理解を深められる。

インフレターゲッティング型の無制限量的緩和という最終兵器が投入された経済はどこへ向かうのか。無制限に緩和された貨幣は、ドルであれ、ユーロであれ、円であれ「悪貨」へと向かう。その中で、果たしてどの貨幣が「良貨」となるのか。新しい「良貨」は登場するのか。貨幣は如何に進化していくのか。著者の言うとおり、見守っていくしかないのだけれども。

是非一読をお勧めしたい。

普通のいわゆる経済学の先生が書ける本ではない。若い時から言語の問題とか、宇野経済学の視点からのスターリン主義への批判とか、色々な視点を持ち種々雑多な人達と接してきた著者が貨幣というテーマをとことん突き詰めて初めて書ける本だと思う。

人間は他者と関わって生きる社会的動物である、しかしその関係性は肉体的即物的な関わりだけでなく観念を通じた関わりである。観念は個々人の意図を離れ自己実現を目指し、言語やネットや貨幣を生み出し、それは我々の社会生活をとても豊かにしてくれる一方で、ときとして我々個々人の他者との本来もっと豊かな関係性を画一化し、またそれが国家権力のような大きなものと結びついたときに不平等や格差を生み出す温床となる・・・

そんな大きな視点から書かれている本書だが、著述自体はロビンソン・クルーソーや裸の王様、オランダのチューリップバブルなどの挿話や史実も交えたとても楽しい本であると同時にアベノミクスの問題点等現代の問題にも切り込んだ時事批評でもある。

是非手に取ってみることをお勧めしたい。