疫病と世界史 下 (中公文庫 マ 10-2) の感想

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タイトル疫病と世界史 下 (中公文庫 マ 10-2)
発売日販売日未定
製作者ウィリアム・H. マクニール
販売元中央公論新社
JANコード9784122049550
カテゴリジャンル別 » 歴史・地理 » 世界史 » 一般

購入者の感想

 疫病の歴史に対する影響は我々が考えるよりはるかに大きいようである。中国ではモンゴル侵攻の前に1億2000万人いたのがほぼ半減している。いくらモンゴルが残忍であっても6000万人を殺戮するのは不可能である。この激しい人口減は疫病によるものと考えられ、昔の疫病のすさまじさを痛感させられる。
 裸体を隠すだけの衣服が行き渡ることによりハンセン病のバクテリアやスピロヘータが肌感染しにくくなり、スピロヘータは性病化して「梅毒」として生き残ったがハンセン病は下火になったとか、スペイン人の南アメリカ大陸への侵略に際してはスペイン人のもちこんだ疫病への免疫をもたない現地人が激減したため南アメリカ大陸のラテン化が容易に達成されたとか(実際、壊滅に近い影響を受けたため戦意喪失という心理的影響も大きい)、歴史家は説明しがたいもの、人間の営みから独立した事象である疫病のようなものの影響を思考から放逐しがちであるとか(なぜなら疫病の一撃を考慮しすぎると従来から延々と積み上げてきた歴史解釈体系を壊しかねないから)、大砲の発明により少数の人間に圧倒的な権力が集中し大砲帝国ともいうべき大帝国の成立が可能になったとか、西洋では医学校や病院が形成されたため疫病に対するノウハウが共有されていったが東洋では医学思想は古典にとどまっていたとか、17世紀以降の健康の改善(カロリーの豊富化など)により農業効率が高まり少ない農業従事者でも都市住民を食べさせていけるようになって都市が発展したとか、人口稠密であるため都市には病気が蔓延しやすく都市は健康な田舎者の絶えざる流入を成立条件としていたが公衆衛生の発達により都市が自立できるようになったとか、日露戦争で日本軍の兵士に予防接種を計画的に実施したことによる効果が認められて計画的予防接種が一般化したとか、マクニールの推測にすぎないものも多いとはいえ、大胆にそして想像力豊かに説得力のある論旨が次々と展開されていく。
 訳者によれば、マクニールは、歴史家が専門分野を限定し、トリビアに走るという態度に批判的なんだそうである。その意味では、歴史家とはこういう手がかり不十分で困難な仕事にもチャレンジすべきだ、というお手本みたいなものを身をもって示しているともいえる。

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