書庫を建てる: 1万冊の本を収める狭小住宅プロジェクト の感想
参照データ
タイトル | 書庫を建てる: 1万冊の本を収める狭小住宅プロジェクト |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | 松原 隆一郎 |
販売元 | 新潮社 |
JANコード | 9784103352914 |
カテゴリ | アート・建築・デザイン » 建築 » 建築文化 » 住宅建築 |
購入者の感想
螺旋を描く階段と壁に沿って、1万冊もの蔵書が静かに美しく収まった空間の写真(カバーと口絵)にまず魅了されました。読み進むと、いわゆる書庫を建てるという男のロマンを語った本とは全く異なることに驚きます。なぜ筆者は書庫を建てたか──明治時代、中学を退学して身ひとつでフィリピンに渡り、満州事変や朝鮮戦争をきっかけに財をなし、敗戦ですべてを無くしたものの50代で再起をかけて成功を果たした1人の起業家。すなはち筆者の祖父へのオマージュと、長男として「仏壇」を守るという祖父との約束を果たすために、この空間は建てられたのです。写真をよく見ると、蔵書の中に仏壇が凛と存在しています。さらに、日本の街並み論や、建築家・堀部安嗣論、この空間を建てた職人の技についてまで筆者の言及は及びます。故郷を離れ都市で暮らすことを選んだ個人が祖父の代からの「イエ」をどうやって継いでいくかという葛藤と、街並みや建築に対する学者としての論がわかりやすい言葉で織り混ざり、共感しながら読みました。この家を設計した堀部安嗣の随筆が随所に挟まれ、それが調和しているのもすばらしい。できることなら、このような空間で、ひとり本を読んでみたいです。