東電OL症候群(シンドローム) (新潮文庫) の感想
参照データ
タイトル | 東電OL症候群(シンドローム) (新潮文庫) |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | 佐野 眞一 |
販売元 | 新潮社 |
JANコード | 9784101316345 |
カテゴリ | 社会・政治 » 法律 » 司法・裁判 » 刑法・訴訟法 |
購入者の感想
同著者の「東電OL殺人事件」の続編。本書は大きく分けて二つの柱が全編を貫いています。
一つはこの事件の加害者とされ、一審で無罪、二審では一転して無期懲役刑を言い渡されたネパール人青年の冤罪物語です。著者は裁判傍聴を続け、検察・弁護双方の主張を綿密に比較しながら、この裁判が冤罪を生む様子を強い憤りをもって描写していきます。
検察側が目新しい証拠を提示することが出来ていないので二審の内容にハッとされることは全くなく、退屈な茶番劇を見せられる思いがします。日本の司法の闇にいつ我々が絡め取られるかも知れぬという底知れぬ恐怖感を感じないではいられません。
もう一つの柱となるのは、昼はエリートOL、そして夜はなりふりかまわぬ売春婦生活を送っていた被害者の物語です。しかしこちらのお話は、私には著者が暴走しているようにしか見えませんでした。
著者によればこの被害者の人生に自らを重ね合わせる多くの女性読者がいるとのことですが、彼女たちが著者の前著の中で見たのは果たして被害女性の実像なのでしょうか。被害者がなぜふたつの顔を持つに至ったのか、その心理状況を著者はあれこれ推理して創り上げていきますが、そのほとんどに私は納得がいかないのです。死人に口なし、といった状況で提示された「幻」ともいえる被害者像に、多くの読者が感応したとしたらそれは罪作りな話です。
冤罪は多くの日本人が犠牲となりうるような、看過すべからざる社会問題です。一方で著者がいたずらに想像/創造した特異な被害者像の向こうに、大衆に共通するような課題が見えるとは感じませんでした。また著者は事件周辺で見聞きするすべてを、ある程度事前に作り上げた被害者像を補強する材料に強引に使っているという印象をぬぐえません。死者の人生をこれ以上いじくるのはやめて、もうそっとしておいてあげたら、という素朴な感想が生まれました。
一つはこの事件の加害者とされ、一審で無罪、二審では一転して無期懲役刑を言い渡されたネパール人青年の冤罪物語です。著者は裁判傍聴を続け、検察・弁護双方の主張を綿密に比較しながら、この裁判が冤罪を生む様子を強い憤りをもって描写していきます。
検察側が目新しい証拠を提示することが出来ていないので二審の内容にハッとされることは全くなく、退屈な茶番劇を見せられる思いがします。日本の司法の闇にいつ我々が絡め取られるかも知れぬという底知れぬ恐怖感を感じないではいられません。
もう一つの柱となるのは、昼はエリートOL、そして夜はなりふりかまわぬ売春婦生活を送っていた被害者の物語です。しかしこちらのお話は、私には著者が暴走しているようにしか見えませんでした。
著者によればこの被害者の人生に自らを重ね合わせる多くの女性読者がいるとのことですが、彼女たちが著者の前著の中で見たのは果たして被害女性の実像なのでしょうか。被害者がなぜふたつの顔を持つに至ったのか、その心理状況を著者はあれこれ推理して創り上げていきますが、そのほとんどに私は納得がいかないのです。死人に口なし、といった状況で提示された「幻」ともいえる被害者像に、多くの読者が感応したとしたらそれは罪作りな話です。
冤罪は多くの日本人が犠牲となりうるような、看過すべからざる社会問題です。一方で著者がいたずらに想像/創造した特異な被害者像の向こうに、大衆に共通するような課題が見えるとは感じませんでした。また著者は事件周辺で見聞きするすべてを、ある程度事前に作り上げた被害者像を補強する材料に強引に使っているという印象をぬぐえません。死者の人生をこれ以上いじくるのはやめて、もうそっとしておいてあげたら、という素朴な感想が生まれました。