怪獣人生~元祖ゴジラ俳優・中島春雄~ (新書y) の感想

私は２０１０年発行版も持っていますが、この新書版も購入してみました。

◆２０１０年版を未だお持ちでない方、お読みでない方（主に特撮ファン）へ
本書は特撮ファンのみならず、邦画ファンにとっては★５個どころか、★１００個つけても足りないくらいの名著です。
戦後日本映画史の観点でお読み頂いても、また幻の超大型空母「信濃」に乗艦されていた話の点では戦記に興味の有る方にも、
多くの方に読んで頂いて非常に意義の有る書籍、と申し上げられるかと思います。

海軍の少年兵から敗戦の混乱、東宝専属大部屋俳優としてのスタート、黒沢映画への出演、大げさでなく日本映画史に残る
ゴジラ映画の着ぐるみへの挑戦、実質的な日本映画最初のスタントマン(戦争映画：太平洋の嵐でのファイヤースタント)、
円谷特技監督の絶大な信頼を得て５０〜６０年代の東宝特撮映画黄金期を支えていく過程、そして円谷監督逝去と日本映画の斜陽化
に伴う、着ぐるみ俳優の引退。　以上、まさに「中島春雄一代記」になっています。

口語体で記述されているので、非常に読みやすく、イマジネーションが膨らんで、読んでいてとにかく楽しいです。
邦画好きな方なら是非ご一読ください！

◆２０１０年版を既にお持ちの方へ

２０１０年版との違いは、
１）新書版あとがきが７ページ追加されている。
　2010年版「怪獣人生」発行以後、宝田明さんや佐原健二さんと海外（米国、欧州）のイベントに招聘された事に関する
　エピソード等がつづられています。（海外のファンの方が恐らく読めないのに「怪獣人生」を持ってきていてびっくりした話など）

２）掲載写真が若干減っている。
　全部チェックした訳ではありませんが、２０１０年版に載っていたのに、この新書版では掲載されていない写真が何点か有るのは
　確認出来ました（ざっと見ただけでもキングコングの逆襲や南海の大怪獣など。この他にも有るかも知れません）。

2014年。ゴジラ映画公開60年の節目の年。これでもかこれでもか、と出版されるゴジラ関連書籍。どれを選ぼうか？と悩んでいるならば本書を選んで絶対後悔しない、と断言します。
縫いぐるみ俳優として大部屋俳優として、また軍に徴兵されて第二次世界大戦に従軍した一兵士の記録としても本書はまことに貴重。「怪獣人生」のみに止まらぬ戦後日本映画史のそして第二次世界大戦従軍の一兵士の人生が凝縮された名著です。
ところで こうしたゴジラ関連書籍の利益の幾らかは版権元の東宝に入るのですが、今や映画興行の世界で一人勝ち、阪急阪神東宝グループは超優良企業として知られます。しかしその繁栄の裏には映画製作部門の分離や専属俳優の大リストラという痛みの歴史があることも忘れてはいけません。
そして円谷英二の亡くなった後には特殊撮影課の解体、特撮作品の予算大幅減。あまっさえ過去の特撮作品のネガプリントを勝手に編集して短縮版映画を作ってしまうという信じ難い愚行を行っています。
映画が斜陽化する中で止むを得ないことだったのか？しかしそのような過去に完全にゴジラを「見限った」感のある東宝が今やゴジラの著作権保有者として莫大な利益を得ているという事実は何とも言えない憤りを感じます。
本当は中島さんたちのような映画の現場にいた人達にそうした利益が還元されるべきではありませんか？
そんなわけで数多あるゴジラ関連書籍、よく吟味して購入されんことを。ブームに煽られて無駄な物を買って東宝を潤す必要はありません！