日本財政 転換の指針 (岩波新書) の感想

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タイトル日本財政 転換の指針 (岩波新書)
発売日販売日未定
製作者井手 英策
販売元岩波書店
JANコード9784004314035
カテゴリジャンル別 » ビジネス・経済 » 経済学・経済事情 » 財政学

購入者の感想

確かに、国民の税金なのでムダというのはできるだけなくしたほうがいいに決まっている。しかし、その使い道は本当にムダのなのでしょうか。マスコミの皆さんもきちんと検証して報道しているのでしょうか。

この本は日本の財政においてムダの削減を主張している本ではありません。財政の使い道を転換しようとしているのです。
これまでの日本の財政は土木などの公共事業によって分配を行い、雇用も創出して、人間の尊厳も担保されてきた社会でした。しかし、それでも社会的に弱い立場になってしまう人々に対しては、その人たちに的をしぼっての社会保障が行われてきたのです。このようなやり方をタゲッティズムと言われます。その人たちに向けての財政的支出です。しかし、このやり方は、行政の審査が必要になります。社会保障を受ける人、特に生活保護などを受ける際の審査では、所得が低いことなどの恥べく事情を暴露しないといけません。このやり方はその人の尊厳を傷つけてしまいます。
それに、公共事業を通じた所得の再分配が機能しなくなってきた現代において、生活保護の増加は深刻な状況になってきています。それに税金を納めているが生活保護などの社会保障のサービスを受け取っていない人にとっては負担感だけが残り、政府への不満も高まってきてしまいます。

そこで、この本の著者は、これまでターゲッティズムによる財政的支出からユニバーサリズムへの転換を促すことがこれからの社会の幸福のためには必要だとしています。ユニバーサリズムとは、誰でもが享受できる行政サービスのことです。

一例では、子どもがいれば、手当が受けられる子ども手当などがその一例となります。
しかし、このことは、多くの財政的基盤も必要となってきます。そのためには著者は所得税の累進性の強化を促し、富裕層からの課税強化をすることが需要だと言っています。そうすることによって現在の日本の財政が低下している所得分配機能を再生することができ、社会的弱者にいる人も恥ずべき事情の暴露をすることなく、人間の尊厳を守られながら、生きて行くことができるのです。と著者は言っています。

 
 「財政の目的は、個人の欲望には還元できない領域、市場ではけっして満たすことのできない領域に目を向けることで、他者の価値観や所得の相違を受け入れられる社会を作ることにある」(本書p.215)
 
 著者の井手英策・慶應義塾大学准教授は、財政社会学等で名高い神野直彦・東京大学名誉教授の流れを汲む学者と見てよいだろう。井出准教授には、神野名誉教授と共編した『希望の構想』(岩波書店,2006年)などがあるわけだが、そこでまず肝要なのが「財政」という「貨幣現象」の人間社会への位置付けである。何のために国家財政等があるのか、何のために我々は税金を納めるのか…。「痛税感」とか「租税抵抗」といったことを抜きにしても、極端な話、税金など払わずに済めば、それに越したことはない、というのが私たちの偽らざる感覚だと思われる。実は、こうした税財政に対する基本的な視点が意外と蒙昧なままで、例えば昨今の「財政危機=財政再建」論議が囂しく展開されているのではなかろうか。かかる論件については、前掲書や神野名誉教授の高著『財政学(改訂版)』(有斐閣,2007年)などを参照願うとして、井出准教授の示す日本財政の方向性とはいかなるものであろうか。

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