よいこの君主論 (ちくま文庫) の感想

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参照データ

タイトルよいこの君主論 (ちくま文庫)
発売日販売日未定
製作者架神 恭介
販売元筑摩書房
JANコード9784480425997
カテゴリジャンル別 » 社会・政治 » 政治 » 政治入門

購入者の感想

冗談と実用の間を生きるマルチ作家「架神恭介」が「辰巳一世」と組んで世に送り出した初期の傑作です。
今回のお題は為政者の友たる実用書の祖というべきマキャベリの『君主論』。それを噛み砕いて説明してくれる抄本、解説書の体裁を取っています。

下手すれば漫画よりわかりやすいかもしれません。
一応、本作独自のコミカライズもされており最終回で伝説を作ってしまったのですが、とりあえずそれは別の記事に投げときましょうか。

マキャベリスト、権謀術数主義者。
「手段を選ばずに権力を獲得する悪人」というイメージが独り歩きしているかもしれませんが、同時にそのピカロな魅力に世の中高生は魅了されているのかもしれません。

しかし、この実用書? 小学生高学年向けという体裁になっているんですよね。……どこまで本気かはわかりませんが。

ただ、小学生というミクロスケールを舞台に採ることで翻ってマクロな組織力学に応用できているのが上手い。
小学校高学年ともなれば互いの距離感はまだまだ近いけど、同時に処世術を身に着ける年頃でもありますし。
あと、中学生以上になると流石に洒落にならないところを笑いに昇華できているので、げに恐ろしきは小学生の魔力とでも言っておきましょうか。

この本、とある小学校の一クラスで巻き起こった児童間の主導権争いを「君主同士の権力闘争」に見立て、推移していく情勢をストーリー仕立てでお送りします。
そして、その合間に学習漫画/教育アニメのノリで生徒役の「たろうくん」「はなこちゃん」が登場し、ふたりの質問に対して先生役の「ふくろう先生」がケースバイケースに教え諭していきます。

「愚民ども」「良い極悪非道」……などのパワーワードがポンポン飛び出し、当然のようにみんなが受け入れているのが、笑えますね。

あと、章立てで読者に様々な君主と代表的な謀略の例を体験させつつ、劇中劇のキャラクターを把握しやすく、記憶に残りやすい仕掛けをしているのも面白いですね。
クラスの主だった面々が有名作品のパロディになっていたり、TRPG風のステータス表記がされてたりもします。

小学生の権力闘争というユニークな舞台で、マキャベリの大著『君主論』を解説した意欲作。
子供向け、と半分冗談めかして書かれているが、原作のエッセンスがわかりやすく過不足なく取り込まれていて、原作を読まれる方の導入としても十分な基礎情報がある。

作中の小学生同士は本音を隠し、常に互いに足を引っ張り合い相争う。
その政争劇は大人の世界もかくやの駆け引きの連続である。一見「よいこの」というタイトルとはかけ離れており、子供に素直にまっすぐ育って欲しい親としては、最も見せたくない類の本ともなり得よう。

が、それでも敢えて、本書は子供にこそ読んで欲しい。
私の知る限り、エリートの子弟は小学校高学年の頃には本書にあるような処世術は身に着けていたし、日本人は代々、本著の説くような外交戦を不得手としている。

「よいこ」が「よいこ」であるために必要な強さを補完する意味でも、或いはより高齢の読者が日々をより楽しく生きる「強かさ」を学ぶ意味でも、多くの人に読んで欲しい一冊。

が、上記に関して一点、本著を読む際の注意点がある。

覇道と言いつつも、主人公は基本的に「正しい」人間である。
人一倍の努力をするし、正義感や仲間を大事にする心を持ち合わせている。
肝心なときには王道も用いている。
彼の目的はクラス支配だが、それは自分のためだけの統治ではなく「みんなのため」という明確な芯がある。

本書において、その主人公の美質への言及は目立たない。
が、主人公の策は全てその美質を前提としている。
ここを見落として表面だけを解釈すると、本書への評価も得るものも真逆のものになる。
要注意。

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