漂流 (新潮文庫) の感想

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参照データ

タイトル漂流 (新潮文庫)
発売日販売日未定
製作者吉村 昭
販売元新潮社
JANコード9784101117089
カテゴリ » ジャンル別 » 文学・評論 » 歴史・時代小説

購入者の感想

「史実」を題材とした小説は数多くあるのに、著者の小説が「記録文学」と呼ばれるのは何故だろう。個人的な考えだが、それは4つの理由があると思っている。
一点目は、その作品からフィクション的な要素を取り除いた「史実」の部分もノンフィクション作品として一級品であること。
二点目はその作品が史実を題材とした単なる人間ドラマとなっているのではなく、史実と人間が同じ価値を持って描かれていること。
三点目は、作品に登場する人間も、著者の取材と調査によって得たものからその個性が形作られていること。
そして四点目は、著者の抑制の効いた文体である。

序文にある通り、この作品の基になったのは、漂流した人物の手記ではなく幕府(藩)の取調べ書である。起こった事実は記されていても、その人物の心情が記されているはずもなく、その人柄は事実から推測するしかない。

この作品が、事実だけを丹念に綴ったノンフィクションであったとしても圧倒的に面白い作品になったに違いないが、それだけではなく「小説」として優れたものになっているのは、やはり、生還した長平をはじめとする、著者の創造によって人格を与えられた登場人物によるものである。肉体的にも精神的にも極限の状況に置かれた人間の強さを見事に描き切った作品である。

著者は7月31日に79歳で亡くなってしまった。非常に惜しまれる死だが、作家としては幸せな生涯だったに違いない。

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