抗体科学入門 の感想

この本は何のために書いたのか。どんな読者にどんな知識を与えてくれるのか。理科系の本ならば、そういうことを本のはしがきに書くべきではないか。抗体工学というのは聞いたことがあるが、抗体科学という耳慣れないタイトルについてのコメントも欲しい。レビューには、「本書は「免疫」を説明しながら、この「抗体」分子の基礎と応用を中心に述べている。」とある。しかし本書は「免疫」を説明していないし、抗体分子の応用はともかく最新情報に基づいて基礎を誠実に説明しようという姿勢は見られない。高校の化学の教科書にあるような質量作用の法則やギブスの自由エネルギーの式でかなりの紙面をさいている一方で、肝心の抗体の構造に関する記述は実にあっさりとしている。

ただし参考文献の紹介は充実している。著者が読んだかも知れないちゃんとした本を買って勉強しなくちゃとは思わせてくれる。この分野のブックガイドあるいはカタログとしてならば利用価値はある。