先進国・韓国の憂鬱 (中公新書 2262) の感想

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参照データ

タイトル先進国・韓国の憂鬱 (中公新書 2262)
発売日販売日未定
製作者大西 裕
販売元中央公論新社
JANコード9784121022622
カテゴリジャンル別 » 社会・政治 » 政治 » 政治入門

購入者の感想

「日本に住む私たちにとって、隣国韓国は大変に評価しにくい国」という著者のあとがきの言葉は、本書を手に取った理由を言い当てているように思う。日常的に触れる報道の範囲では、我々の隣国の現在を正確に理解し評価することは難しく、特に19世紀後半からの両国関係史が絡んだ反日・嫌韓の感情も互いを見る目を曇らせているように思われる。そうしたなかで、本書は、金大中政権(1998年発足)以降の隣国の政権が、「少子高齢化、経済格差、グローバール化」という先進国共通の「憂鬱」な問題に対して、どのような政策方針・目標を掲げ、それをどのように具体化したか、又はできなかったかを、社会保障政策と通商政策等の展開を軸として明らかにする。様々のアクター(政党、経済団体、労働組合、市民団体等々)の動きや、その底流にあるナショナリズム、地域主義とった国民感情などを含む多様な要因と関連づけた分析は、ディシプリンとしての政治学の特色がよく活かされている。本書全体を通じて、隣国の歴代政権が、新自由主義的な経済政策・通商政策と社会民主主義的な社会保障政策という一見して共存が難しいと思われる政策のベストミックスを求めてきたことがよく伝わってくる。また、単に歴代の政権に止まらず、隣国の国民がこうした問題をどのように受け止め、向き合ってきたのかもうかがい知ることができた思いがする。付言すれば、年金、医療、雇用、福祉等の個別の政策課題毎に、我が国における政策のあり方と対比しつつ読むと面白さがますが、我が国にとってはこれらの問題の深刻度は隣国以上と思われる割には、政策技術論や財政論に偏して、政策論議としての高まりが乏しいようにみえるのはなぜなのだろう。これ自体が比較政治学的な問題なのかもしれない。

日本や他の先進国と同様に、少子高齢化、経済格差、グローバル化といった問題に直面している韓国。韓国を先進国の仲間入りさせた一方で、こうした問題を生じさせたのは、アジア通貨危機の際に、IMFに強要された新自由主義的な経済政策によるものというのが通説である。

新自由主義的改革を進展させた金大中、盧武鉉は、所得の再分配などで格差の是正をはかる進歩的な政権であり、新自由主義との親和性は低い。むしろ真逆の立ち位置にある。それにも関わらず、彼らはなぜ新自由主義的改革を進め、社会保障を充実させなかったのか。

結論から言えば、金大中も盧武鉉も、決して新自由主義的な経済政策のみを目標と掲げていたわけではない。新自由主義的改革を推し進めながらも、不十分だった社会保障制度を整備し、福祉国家化を目指していたのだった。

だがこうした政権の態度は、保守派からは中途半端と批判され、支持基盤の進歩派からは裏切り者として罵られ、結果的にどっちつかずのまま頓挫する。経済政策も福祉国家化も「未完の改革」となり、イデオロギー対立によって「委縮した社会民主主義」という均衡点に帰着させたのだった。

一方、自由主義的な政策の転換をはかり進歩派が整備してきた社会保障政策を再編しようと試みた李明博政権もまた、その理念通りの政策を打つことはできなかった。朴槿恵派という与党内野党の存在によって強いリーダーシップを持つことができず、前政権の方針を覆すことができなかったためだ。

さて、過去3つの政権を駆け足で振り返ると、各政権がそれぞれの理念に准じた政策を打ち出せなかったために各々の改革が骨抜きにされてしまった原因が、韓国政治の構図にあることが浮かび上がってくる。その中で、いまだ「委縮した社会主義」という均衡点を抜け出せずにいる朴槿恵政権は、先進国としての課題をいかに取り組もうとしているのか。韓国の憂鬱は、おそらく日本が直面している問題のヒントとなるだろう。

【Reviewed By Synodos/シノドス】

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中央公論新社から発売された大西 裕の先進国・韓国の憂鬱 (中公新書 2262)(JAN:9784121022622)の感想と評価
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