村上春樹、河合隼雄に会いにいく (新潮文庫) の感想

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参照データ

タイトル村上春樹、河合隼雄に会いにいく (新潮文庫)
発売日販売日未定
製作者河合 隼雄
販売元新潮社
JANコード9784101001456
カテゴリ文学・評論 » エッセー・随筆 » 日本のエッセー・随筆 » 近現代の作品

購入者の感想

 村上春樹と河合隼雄の対談集。
 京都で二日間行われたものをほとんど手を入れずに収録しているということだが、作家が作品を作るというプロセスと、心理療法家が療法をする際の視点の「共通軸」を掘り下げながら、欧州、米国、日本の個人の捉え方についての比較文化論も交えて話が進む。

 ・・・という内容は、まあ、読んでみたらわかることなのだけれど、僕にとっては、芸術がおよそ芸術である為に必要な事項、というものを再認識する上でとても役立った。
 村上春樹の創作の仕方や井戸についての話はよく理解できる(この理解できる、というのは曲者であって、厳密には理解したつもりになっている、ということなのだが)し、河合氏の箱庭療法についての挿話などは、ライフコーチングでの類似の場面を思い出したりして、とても興味深い。

 途中で出てくる源氏物語における霊の現実性と現代における霊の装置性の対比や、現代において装置として登場するそれらのものは、ある時点で装置を超えざるを得ず、超えて初めて芸術足り得るという河合氏の見解は簡潔にして、的を射ていると感じる。

 恐らく、この対談集から何を読み取るか、ということは人それぞれだろう。
 惜しむらくはフッターノートに書かれているコメントに今一歩の深さが欲しいことで、これは恐らく校正の時間や、発表媒体の性質に拠るものだとは思うが、勝手ながら、それぞれの深い見解をもっと聞いてみたかった、という気もする。

 村上春樹が「クロニクル」を書き上げ、日本に帰って来た頃の話です。15年くらい前でしょうか?
 けれど、内容的には決して古びていません。レベルの高い対談です。
 このあと、大作「1Q84」が生まれることを頭に思い浮かべながら、楽しく読ませてもらいました

印象に残った点

 (夫婦関係について)
  村上「格闘しているような気持ちです」

 (小説を書くことは「欠落を埋める」ということについて)
  村上「それをなんとか埋めて行こうとする。その行為に結果的な客観性がある場合には、芸術になる」誰の言葉だったか「天才とは何かが欠けていること」を思い出しました。

 (殺すことによって癒される人がいることについて)
  河合「そのような運命を背った人が、どのような「物語」を生み出すことによってこの世に生きながらえていくか」この種の人に対し最大限のサポートをするということでしょう

 (死者について)
  村上「僕は小説を書いていて・・・死者の力を非常に良く感じることがある」村上はこのあと、ノモンハンを訪れた時、超常現象に会ったことを語っている。彼は作品ではオカルト的な、スピリチュアル的な内容をふんだんに扱っているが、日常生活(エッセイ)では、それについてほとんど言及していません。珍しい。

  現在(2011年4月)、東北の地震・津波復興、原子力問題の渦中にある。日本はこの最大級の国難に直面しているが、二人の賢者はこの状況をどのようにみているのでしょうか?彼らは日本に「暴力」の復活を予言していますが、果たして平和裏に復興が可能なのでしょうか?日本には得意の輸入システムの「改良」ではなく「発明」が求められています。ぜひお二人の意見(河合氏は草葉の陰から)を聞いてみたいものです。

「デタッチメント(無関心)」から「コミットメント(関心)」へ、という、『ねじまき鳥クロニクル』以前以後の、村上春樹の作品を通しての、自分自身の社会に対する在り方の変遷が、心理学者である河合隼雄氏との対話で顕わになります。それ故、村上氏の作品が好きな人には、小説ではないこの一冊も、彼の小説を理解するためにこそ必要なのではないでしょうか。

対話の形式として、村上氏が先に質問や問題提起をして、それに対して河合氏が適切に返答するという感じが多く、何処と無く村上氏が河合氏のクライアント(患者)であるようにさえ映りました。河合氏の抱擁するような優しさを感じました。村上氏は、小説を書く動機は自己治療の為、と言っていますが、健康な生活を重んじているという村上氏も、実際上はその内面に重い業を抱えているのであろう、と思いました。時折村上氏のマニアな文学話も出てきて、面白いです。0

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