居住の貧困 (岩波新書) の感想
参照データ
タイトル | 居住の貧困 (岩波新書) |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | 本間 義人 |
販売元 | 岩波書店 |
JANコード | 9784004312178 |
カテゴリ | ジャンル別 » アート・建築・デザイン » 建築 » 民家・住宅論 |
購入者の感想
筆者が慈愛あふれるリベラリストであることは、よく分かった。筆者が社会的弱者に向ける眼差しは暖かく、社会に向けた舌鋒は実に熱い。日本政府の住宅政策の貧困が、現在の劣悪な住環境を発生させ、それが社会的弱者を直撃していることに、筆者は憤りを隠さない。しかし、である。筆者の凝り固まったイデオロギーが、真の問題の所在を見えにくくさせてしまっている。残念なことに、筆者は、この本の中で、弱者の居住問題に対する有効な解答を、殆ど示せていない。筆者は、中曽根が嫌いであり、サッチャーが嫌いであり、小泉が嫌いであり、民間企業が嫌いであり、市場経済が嫌いである。だが、我々は、好むと好まざるとに関わらず、市場経済の中で、民間企業と共に生活している。市場経済の性質を理解したものでなければ、社会的弱者に対する保護も効果を持たない。故に、市場経済が間違っているから全部政府で丸抱えせよと言わんばかりの筆者の考えは、説得力を有することができない。また、いわゆる新自由主義や企業が憎いばかりに、いびつな弱者保護が引き起こした既得権益の問題にまったく触れないという姿勢は、著しくバランスを欠いている。同じ住居問題を扱った新書なら、平山洋介氏によるものの方が、公平で参考になる。筆者ほどの名声を得た人物であっても、この程度の分析、提言しかできないところに、わが国のリベラリズムの貧困を感じるのは評者だけではないだろう。とはいえ、わが国の住宅政策の経緯をまとめたものとして、資料的な価値はあると思われるので、星3つと判断した。