ちよう、はたり (ちくま文庫) の感想

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参照データ

タイトルちよう、はたり (ちくま文庫)
発売日販売日未定
製作者志村 ふくみ
販売元筑摩書房
JANコード9784480423863
カテゴリ文学・評論 » エッセー・随筆 » 著者別 » さ行の著者

購入者の感想

久しぶりに美しい日本語に触れる悦びを味わった。無駄がなく、衒いがなく、嫌味がない。著者は人間国宝の染織家であり、多数の著書のある随筆家である。神田神保町の東京堂書店でちょうど求龍堂のフェアをやっていて、その棚から偶然手にとった。そういう出合い。染織のことは何も知らないから、日本の伝統的な色の名前や、志村さんが染織の使う植物の名前や、染織の歴史に重要な役割をはたした仏教用語など、読み方や意味がわからない言葉も多くて、辞書をひきひき読んだ。ある言葉の意味や背景がわかると、わずかな隙間から光さしこんでくるような喜びを感じた。読書は「こなす」感覚で行う家事や仕事、トレーニングのようなものとは根本的に違うのだと改めて思った。

40篇にも満たない掌の随筆集のなかに、天平の仏像から9.11の同時多発テロに至るまでの時間が流れている。著者の染織との出会い、師である民芸運動の創始者、柳宋悦との決別、創作への迷い、幼くして別れた生母への思慕、戦死した従兄の思い出、『苦海浄土』石牟礼道子さんとの交流……。大げさな感情表現なしに、叙事的に語られる文章の行間から、著者の内面世界の深みが感じられる。悲しく、苦しいことをそのまま悲しい、苦しいとは書かずに、時の流れのなかからここぞという場面を切り取って並べ直して数ページの短い文章で伝えきっている。まるで時間という縦糸に横糸をからませて瞬間をとらえているかのような。

志村さんの「一色一生」を随分と前に読みました。そのころ、染色や織物をやっていた私には、バイブルのようなエッセイでした。
そして、初めて志村さんの着物を見たのは旅の途中のとある地方の美術館でした。思いもかけずめぐり会ったその繊細で美しい着物の前で、しばらくたたずみあきることなく、その色たちの奏でる世界を堪能したのでした。
「記憶の底から、機の音が聞こえる」・・80年も前の機の音「ちょう、はたり」その音を聞きながら生きてきた。 歴史の深みと、物事の本質を追求してやまない人。志村さんは、ウイリアムブレイクや、ゲーテやシュタイナーの表現するところの宇宙や、精神、眼に見えないものの表す世界を色で表現しようとしている人なのではないかと思います。
その着物のように透明感のある文章なので、志村さんの文を読むときは背筋を伸ばし、心して読むようにしています。過去からの生命の歴史と自然を、色を通して感じられるようなそんな文章です。
私の若い比の自分の夢は、軽くて、なににでも変化する、美しく繊細な羽衣のような布を作りたいということでした。
志村さんの布はまさにそのような天空をまう布です。そして、その羽衣のような文章。
織りのリズム、色の音色のなかで紡がれた、美しい旋律の随筆をぜひぜひ、お読みになってみてはいかがですか!!

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