漢詩百首―日本語を豊かに (中公新書) の感想

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タイトル漢詩百首―日本語を豊かに (中公新書)
発売日販売日未定
製作者高橋 睦郎
販売元中央公論新社
JANコード9784121018915
カテゴリ文学・評論 » 詩歌 » 詩集 » 現代詩

購入者の感想

著者は詩人であり、中国文学の専門家ではないが、それがかえってこの本が初心者にもわかりやすい漢詩入門書になっている所以ではなかろうか。例えば、著者独自の見解を述べたであろう以下のような記述は漢詩初心者にとっては大枠を理解する上で大変有難い。「東晋は百年余つづくが、この間、とくに前半目立つ詩人は無きに等しいが、後半になって唐以前最大の偉才が登場した。陶潜、字は淵明。」「陶淵明がいなければ後世、唐の杜甫も、宋の蘇軾も、下って清の袁枚も出なかったろう。」「唐帝国三百年の最も卓れた詩才を挙げれば、衆目の一致するところ盛唐の李白と杜甫。これに次ぐのが中唐の韓愈と白居易。」「韋応物は、先立つ王維、孟浩然、つづく柳宗元と並べて後世、王孟韋柳と称せられ、卓れた自然詩人を謳われる。」「宋代三百年間、名の知られる詩人は六千八百人以上。唐三百年間の詩人を網羅したといわれる『全唐詩』の二千二百人余の三倍強。まさに詩人の時代だが、第一人者は誰かとなれば衆目の一致するところ、蘇軾だろう。」
また要所要所に中国王朝史が詳しく述べられており、時代背景の理解に一役買っているが、これも著者ならではの初心者への気遣いであろう。例を挙げれば、「後漢が亡びて中国全土が分裂、隋が興って全国を統一するまでの370年間を一まとめに魏晋南北朝と呼ぶ。南朝に限っても魏、西晋、東晋、宋、斉、梁、陳、王朝がめまぐるしく変わった政情不安な乱世で、」「唐朝ほぼ三百年を四つに分け、初唐・盛唐・中唐・晩唐とする。このうち盛唐は中宗が韋后に毒殺された710年から代宗即位三年目の765年までの56年間。中に玄宗の治世44年を含み、政治・経済・文化の最盛期であるとともに、後半は安史の乱により凋落の兆しの見えはじめた時代でもある。」
もちろん書き下し文とその説明文も詩人らしいルビ遣いが心憎いほど流麗で他書に類を見ない出来栄えであるので、初心者だけでなく漢詩上級者も学ぶべきことが多い良書であろう。

 中国人60人、日本人40人の漢詩を100首集めて、しかも、全文ではなく、サワリといいますか、一番、調子のイイところを紹介した、東洋の歴史2500年で生まれたベストヒット・メドレーみたいな本。選者である詩人の高橋睦郎さんは、『敗戦の折、日本人一般の脳裏に浮かんだのは、人麻呂の和歌でも芭蕉の発句でもなく、杜甫の漢詩の一行、「国破れて山河在り」ではなかったろうか』とまえがきで書いていますが、漢詩はの日本語に対する影響というものは本当に大きいものだと思いますし、副題の『日本語を豊かに』というのが、意図を語っています。

 楽しいのは、日本人の詩人はともかく、中国の詩人のチョイスには相当、心が砕れているところ。なにせ、一番最初が孔子。「逝く者は斯夫の如きか、昼夜を舎かず」(『論語』子罕)が収められているんですから。そういえば詩ですよね。この響き、調べは。次も荘子の胡蝶の夢ですし、ようやく陶淵明が来るのは11人目。もちろん、『和漢朗詠集』の伝統は生きていて杜甫と李白は一篇ずつ。まあ、一人一篇ということで白楽天もひとつにはなっていますが(『和漢朗詠集』では135篇!)。中国人のラストは毛沢東の「七律 答友人」(1961)の一節。「九巍山上、白雲飛び、帝子 風に乗って翠微に下る。班竹一枝 千滴の名涙、紅霞万朶、百重の衣」。確かに、こんなのを読むと、毛沢東といのは皇帝の気分だったんだろうな、と思います。

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