イギリス 繁栄のあとさき (講談社学術文庫) の感想

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タイトルイギリス 繁栄のあとさき (講談社学術文庫)
発売日2014-04-25
製作者川北稔
販売元講談社
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本書の原型は1995年に刊行された。当時の著者の問題意識は、すでに長期化していた日本の不況を観察し、単なる景気循環論を超えた、歴史的視点が不可欠ではないか、との思いだったとのことである(「文庫版への序」より)。

日本では,1990年代後半以降,政策金利がゼロになる一方,物価上昇率もゼロ近傍のデフレ状態が20年続いている。その原因については、経済学者の意見は一致していない。しかし、本書の著者の歴史的視点、つまり日本は既に衰退期に入っており、冷静に「繁栄のあと」の国のあり方を考えるべきではないか、との考え方は、東日本大震災を経験した現在、一層説得力を増しているようである。経済学者の水野和夫氏も、超マクロ経済学の視点から、日本のような長い超低金利時代は世界史的に見てもこれまでに存在せず、日本が根本的に変わりつつあることを意味しているもので、昨今の経済成長戦略は根本的に誤っていることを指摘している。

著者は、言わずと知れた、ウォーラーステイン「世界システム論」の日本への紹介者であり、関連の多くの訳書や著書がある。本書は、世界システム論を援用しながら、これまでのヘゲモニー国家であるオランダ、イギリス、アメリカのうち、専門であるイギリスの歴史を中心に、「繁栄のあとさき」を辿るエッセイである。通常の世界史とは違う切口で、多くのエピソードを交えており、楽しめる。イギリスの本質を「ジェントルマン資本主義」を捉える考え方、産業革命といえる程の急激な社会経済の変化はなかったという説の紹介など、面白い。

世界システム論の重要な帰結のひとつは、ヘゲモニー国家は、生産、流通、金融の順に勃興し、この順に衰退していく、ということだろう。実際、オランダ、イギリス、アメリカにはこの理論があてはまっている。繁栄とはいっても、たかだか20年程度しか続かなかった日本でも、まず生産が国外に流出していることは確かである。この先日本がどうなるかは予想もつかないが、著者は、イギリスに学ぶべきことは、繁栄の後に残るのは「文化」であることを肝に銘じ、その蓄積により急激な衰退は避けられることだ、と指摘している。「歴史学とは、単に過去を振り返るものでなく、未来を目指す学問でもある」との著者の思いに共感する。

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