天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災 (中公新書) の感想

アマゾンで購入する

参照データ

タイトル天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災 (中公新書)
発売日販売日未定
製作者磯田 道史
販売元中央公論新社
JANコード9784121022950
カテゴリ歴史・地理 » 日本史 » 一般 » 日本史一般

購入者の感想

 『武士の家計簿』が有名な筆者が防災史を書いたのは意外な感じを受ける方が多いと思いますが、それは母親が1946年の昭和南海地震の被災者だから。徳島県牟岐(むぎ)は《日本有数の津波常襲地である。大津波が何度もきて、そのたびに村人は屍体の山を築き、津波から逃げきれた者だけが子孫を残してきた土地である》という紹介は迫力ありすぎ(p.152)。筆者によると津波から自力で逃げられるのは学齢に達した6歳以上の子が多く、逆に体重が重いわりに幼く、母親が抱いて逃げようとすると負担が大きいのが4~5歳児。だから母子による津波避難訓練は大切で、避難所の高台まで、親子で訓練を兼ねた夜のピクニックなどを提案しています。

 このほかにも1586年の天正地震は家康を討とうとした秀吉の前線基地、大垣城を襲って兵糧米を失い、先鋒を期待されていた山内一豊も長浜城一帯が火の海となって出陣どころではなくなったために和睦したというんですね。小牧・長久手の後始末の話しはややこしくてよくわからないのですが、こう考えるとスッキリと理解できるかな、と。文書だけでなく地形や気候、災害が与えた影響というのをもっと考えると歴史は面白くなるよな、と改めて思います。さらに秀吉は1596年の伏見地震でも九死に一生を得たのですが、地震被害に激怒して方広寺に自ら建立した大仏に弓を引いたといいます。その後、秀頼が「国家安康」の鐘を寄進して滅ぶわけですから、方広寺は豊臣氏にとって鬼門だったようですね。

 この本は朝日新聞の連載を元にしていますが、奥付11月25日になっているのに、今年10月発生した東海道線の土砂崩れのことを書いているのには驚きました。さらに、驚くのはその現場が150年前に同じような土砂崩れが発生していた古文書が残されていたこと。記録では村人が役人に《薩た山には危うい場所もあったが、村の裏山はこれまで山崩れなどもなく、油断していた》と語ったといいますが、台風18号の影響による土砂崩れで東海道線が10日間不通となった土砂崩れの現場はその西隣だったそうです。

「300年前のこの古文書は我々に物語る。老人・子どもは災害時の低体温症にとくに弱いこと。年長者は責任ある言動をしなければならないこと。疲労困憊時には弱気になり判断が鈍ること。我々はこれらを自覚して、老いも若かきも、最後まで避難を投げないことが大切だ」。

地震、津波、噴火、土砂崩れ、高潮、台風。日本は有史以来多くの災害に見舞われてきた。その被害の記録や教訓を後世に残そうと多くの人たちが筆をとったものが各地に残されている。本書はそのような古文書に書かれた災害の記録をたどってまとめたものである。著者は「武士の家計簿」で有名になった歴史学者。

天正地震が発生しなければ、徳川家康は豊臣秀吉の猛攻撃を受けていた筈だった、というのは知らなかった。大阪に来る津波は歴史上高さにかなりばらつきがあるようだが、650年前のものは6メートルくらいあった可能性がある。南海地震の規則性や、南海トラフ・相模トラフ大地震が富士山の噴火と関連が深いことは多くの記録からその事実がわかる。昔の人たちの筆まめさに、われわれは感謝しなくてはならない。富士山噴火にはいくつも前触れがあったこともうかがえる。火山灰で目を傷めた人も多かったらしく、著者は「火山灰はガラス質。富士山が噴火したら、東京では目を守るゴールが飛ぶように売れることを予言しておく」と断言している。

著者は、同じ災害に遭っても、逃げ方は家族の性格や生い立ちや価値観の違いで千差万別で、その逃げ方によって生死が分かれている例が多くあることに注目している。あらかじめ、家族でいざという場合のことを話し合っておき避難場所も決めておく、何も持たないで逃げる、ましてや一度避難しはじめたら絶対にお金や物を取りに戻らない、赤ん坊のいる家庭は抱っこ紐を枕元において置き逃げるときは落ちたり流されないように親の体にくくりつける、津波のときにはなるべく川や橋に近づかない、第一波が済んだからとすぐに戻らない。地震でため池が決壊してその下手の多数の民家で被害が出ることもある。

地震や噴火などの災害の歴史はけして終わったことではなく、いつ同じような天災に襲われても不思議ではない現代日本に生きるわれわれにつながっている。先人たちが残した貴重な経験や教訓から学ぶべきことは多くあると思った。

あなたの感想と評価

コメント欄

関連商品の価格と中古

天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災 (中公新書)

アマゾンで購入する
中央公論新社から発売された磯田 道史の天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災 (中公新書)(JAN:9784121022950)の感想と評価
2017 - copyright© みんこみゅ - アマゾン商品の感想と評価 all rights reserved.