What If?: Serious Scientific Answers to Absurd Hypothetical Questions の感想

”What if”というタイトルが示すように、
「周期表のとおりに物質のキューブを積み上げていったらどうなる？」
「１モルのモール（もぐら）を集めたらどうなる？」
というような、一見科学的であるが、ばかげたようにみえる仮定の質問に挑戦し、真摯に科学的な答えを求めようとした本です。

ここまでだと、ありがちなネットのジョークを集めただけのようにも見えますが、カトゥーニストでもあると同時に、元NASA職員でもある著者は表面的な答えを出すにとどまらず、深くテーマを掘り下げ、読者には簡単に想像がつかないような結論に着地します。
たとえば、「１mの立方体にドライヤーをスイッチを入れたまま閉じ込めたらばどうなる？」という質問に対しては、一般的なドライヤーの出力1875ワットの場合にとどまらず、テラワットの世界まで想定し、その答えを論理的かつ演繹的に求めます。

一方、文章は軽快で、堅苦しくなることはなく、ユーモアも非常に洗練されており、思わず笑みがこぼれるとともに、感心してしまうような表現が随所にちりばめられています。また、ある程度専門的な内容には詳しい説明も載っていますので、ある程度の数学・科学の理解があれば、作者の論理を追うことができると思います。

質問ごとの章立てとなっており、一章の分量は10ページ前後ですので、大学生はもちろん、高校生くらいでも、やる気さえあれば読書に挑戦できるかもしれません。大人にとっても、楽しいだけではなく、解答を通じて学生の頃勉強して以来忘れてしまっていたような基礎的な科学的内容が、日常の現象をいかに説明しているか、ということに気づかされる、良書です。

私は、小型の飛行機に乗る時に反対側に体格が大きなアメリカ人が座ると、「あっちに傾いてバランスがとれなくて危ないんじゃないか。誰か重そうな人を私の前に乗せてくれ」と不安になる。バスや船で窓の外にある何かを見るために乗客がひとつのサイドに押し寄せると、外を見るよりも「バランスを取るために反対側に行かなくては」と焦ってしまう。

そういった不安には根拠があるけれども、それを延長させていった「地球上の人類が一箇所に集まったらどうなるんだろう？　地球の回転速度が変わっちゃうんじゃないかな？　」というのはありえない疑問である。
けれども、考え始めたら気になるものである。

そのありえない仮説の「もしこうなったら、どうなるだろう？」という質問に、大真面目に科学的に答えるのがこの本「What If」である。（実際に、地球上の人類がいっせいにジャンプして着地したらどうなるのか？」という質問もあった。）

著者のRandall Munroeは元NASAのロボット研究家で、現在はカルト的人気を誇る漫画のウェブサイトxkcdを運営している（Googleすればサイトがわかる）。プロの漫画家として生きているわけだけれど、サイトに行けばわかるように、彼が描く人物は全部stick figure（頭が◯であとは棒線）である。 そこがまた可笑しい。

くだらない質問についてのMunroeの答えは、トワイライトゾーンである。

読者は予期しない場所に連れて行かれて頭がクラクラしてくる。真面目なのかジョークなのかわからないデッドパンな解説に、つい噴出す。
それが快感になのだ。だから、こんなに人気があるのだろう。アメリカではベストセラーになっている。

数学的な部分は私にはよくわからないが、それでも楽しく読める。

日本で英語を学んだ人にとっては最も理解しやすいタイプの英語だし、質問ひとつを読み切ることで満足感も得られる。小説が苦手だけれども洋書をトライしたい人におすすめである。