原発と大津波 警告を葬った人々 (岩波新書) の感想

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参照データ

タイトル原発と大津波 警告を葬った人々 (岩波新書)
発売日販売日未定
製作者添田 孝史
販売元岩波書店
JANコード9784004315155
カテゴリジャンル別 » 科学・テクノロジー » エネルギー » 核・原発問題

購入者の感想

今回の福島原発事故の主因は巨大津波によるものである。
本事故に関連した書籍は千冊にものぼるとされるが、「巨大津波は予測されていたのか?」という疑問を、事実に基づいて解明したのは本書だけである。
著者は理系出身の元記者とのことで、冷静に書かれており、津波予測を無視した経緯を学者にインタビューした記録は秀逸である。しかし、こんな学者に命を預けていたかと思うと腹立たしい限りである。

1)1999年に国土庁等から出された「津波対策強化の手引き」を基に、2000年に東電は「福島第一原発の津波高さは5mとなり、 解析の不確かさ上限の2倍では10mの津波と予測され、6mで海水ポンプが停止する(つまり最終的には炉心溶融に至る)」との報告書を電気事業連合会の場に出した。
また、この結果を無視するために、土木学会を利用した経緯も書かれている。

2)2002年に文部科学省・地震調査研究推進本部が出した福島沖の地震予測を基に、2008年に東電は「福島原発で15.7mの津波が予測される」という結果を得ていた。
このこと自体は政府事故調査報告書にも記載されているが、これが無視された経緯を本書は明確にしている。

福島原発事故の調査報告書は10種類にのぼるが、著者が津波分野を担当した国会事故調査報告書を除き、上記疑問とそれが無視された経緯を解明した報告書はない。
とりわけ酷いのが最後に出された日本原子力学会の事故調査報告書であり「2011年までの予測は最大6mの津波だった」とあり「福島原発への巨大津波を世界中で誰も予測していなかった(から仕方が無い?)」とも取れる。

3.11事故の直後、「貞観津波の存在を指摘し、15m級の津波の襲来を指摘していた学者(産総研の岡村センター長)がいたが、まだ定説になっていなかったので、対策するまでに至らなかったのは仕方がない」という説明を聞かされて、われわれ素人は「まだ良く分からなかったんだ」と潔く諦めていた。かなり時間が経った後も、東電の責任を問う裁判を求める市民の訴えに対しても、検察はそういう論理で、東電を不起訴処分にした(P.98)。
しかし、この本を読んで驚いた。1997年以降、このことは、公式の政府機関・学会・電力業界の公式会議の中で何度も議論が繰り返されてきて、その都度東電が政治力で新しい津波想定を無視するように働きかけ、政府機関(保安院・経産省・中央防災会議・七省庁など)、学会(地震学会・土木学会・有識者会議の委員たち)も情報隠蔽に加担し、不作為に徹していたことを、この著者は白日の下に引き出してくれた。
著者は、自らが新聞記者としてこの問題の取り組みに抜かりがあったことを認め、職業的使命を果たしていなかったことを書き記している。
政府・学会・各事故調などは、関係するすべての資料を公開しなければならない。

2000年の東電原発の事故隠しなど、不祥事があるたびに「安全文化」という掛け声を掛けてきたが、そう言っている裏で、新たな隠蔽と安全神話を繰り返し行ってきたのが電力会社の実態である。学会はそれに歩調を合わせて利益相反を繰り返している。
官庁は、原子力規制委員会委員たちの「利益相反」に始まり、公開資料の黒塗り白抜きなど、市民に対する隠蔽を今も繰り返している。
この内輪で固まった不作為と隠蔽体質に自浄作用はない。それを改善する道は、著者も言うように、「公益通報(内部告発)」しかない。原子力学会は最近も『原子力ドンキホーテ』の著者の訴えを退けたりしている。つまり、原子力ムラの官庁・事業者・学会・メディアは、今も反省の色がなく、信用できない。
石橋克彦氏が最近も川内原発の基準地震動想定の過小評価を指摘しているが(『科学』14年9月号)、過去の津波想定の欠落を再演しているのではないか。

原発事故と組織のかかわりは、政府や国会での事故調査報告書でも、東電や規制当局の判断や意思決定の間違いの原因を「組織文化」といったあいまいな概念に逃げている部分があったことは否めない。本書はそこを、組織の意思決定の過程に開示を求めた記録等で具体的に踏み込んで、既存の関連組織がリスクに楽観的になる過程をかなり解明しており、これまであまたある福島第一原発事故の報告やドキュメンタリー類と一線を画す。

これまでの類書の中には、イデオロギー的に原発反対を声高に叫ぶが、その根拠が科学的な根拠からは程遠いあるいは論理に飛躍があるものが多かったが、それらとは明らかに違う、読んでいて説得的な良書である。

我々は、これからも様々な大きなリスクや危機に直面することになるが、その防止のためにはこのようなミクロの組織の意思決定の誤りの探索が不可欠であり、国家は福島第一原発事故の教訓を後世に残すためにも、本書のような綿密な調査をサポートし継続すべきであると思った。

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