別荘 (ロス・クラシコス) の感想

　夢中になって読み終えた。寓意と狂気に満ちた物語はとても魅力的で、引き込まれずにはいられない。それを支える、グロテスクな登場人物たちの振る舞いは余りにアイロニカルで、コミカルで、人工的で、１ページ１ページ読みながらついにやにやしてしまう。しかしその中にやはり、どこか他人事でない、現実的な恐ろしさを感じさせられるものが含まれていもいる。自らののつくりあげた現実の中に閉じこもり破滅して行くベントゥーラ家の人々の姿は、今現実に生きる我々の鏡像だと思わずにはいられない。
　狂気に満ちた、グロテスクな物語であるにも関わらず、要所要所で息をのむような美しい場面が展開されるのはドノソの語りの手腕のたまものだろう。物語りと語りにおぼれ楽しむことのできる傑作だと思う。

すさまじいいきおいで繁っていく綿毛の植物「グラミネア」。その荒野のなかにある「別荘」の敷地。別荘の囲いは、一万本を越える鋼鉄の槍を地面に刺して作られていて、それがグラミネアの侵入を防いでもいます。
別荘のなかにいるのは「ベントゥーラ一族」。彼らは夏のあいだだけ別荘に一族まるごと住み、土地の原住民に「金箔」を作らせ、その権利を独占することで冨を築いています。
ある日、一族の「大人たち」が、全員ピクニックにでかけ、「33人の子供たち」（つまり、「いとこたち」）は、別荘にとりのこされます。
子供たちには不安の種がふたつあって、別荘の外の原住民は「人食い人種」なのだ、という概念と、別荘の塔の上に監禁されている、一族のひとりの叔父（ウェンセスラオには「父」）、「アドリアノ」という、「異質な大人」の存在です。
子供たちは大人たちが本当に帰ってくるのか、という不安のなか、いつもの習慣どおり、「公爵夫人は五時に出発した」という即興劇を、つづけようとします…

この小説は全部で１４章です。７章までが「第一部」、８章以降が「第二部」になっています。

ひとつひとつの章はそんなに長くなく、ひと晩に１章のペースで読んでも、短期間で読める物語のような気がします。
けれど私は「６章」まで読んだところで、中断してしまいました。色彩あふれるイメージの連続、思いもかけない方向にすすみつづける物語、と決して退屈でない読書なのですが、読んでいるあいだじゅうずっと、読者自身の視座をどこに置いていいのか、常に不安におびえていなければならないような感じがするのです。（ときおり、語り手がふいに姿をみせるときがあるのですが、それが背後からいきなりのぞきこまれるような現れ方だと、私は感じてしまいました。）
「子供たち」の不安がそのまま読者にのしかかるようで、そのつみかさなりに耐え切れず、しばらくこの本をうっちゃっていました。
それが先日久しぶりにとりあげ、「７章」を読んだら、その「ティオ」という章で、心のなかに、「物語の土台」が、ふいに組みあがった感じがして、びっくりしました。
「そうか、この７章のあとから、いよいよ本当の物語が始まるのか」という驚きがありました。