星に降る雪 (角川文庫) の感想

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参照データ

タイトル星に降る雪 (角川文庫)
発売日2013-02-23
製作者池澤 夏樹
販売元角川書店(角川グループパブリッシング)
JANコード9784041005651
カテゴリ文学・評論 » 文芸作品 » 日本文学 » あ行の著者

購入者の感想

キリスト教の罪、煩悩の概念など、クリスチャンにはわかりやすいが、そうでなくとも深い感動を覚える話しである。また画と文学の融合という漱石の草枕を少し思い出した。

2編とも「友の死」をめぐる物語だ。「星に…」は、一人称で語られ、ある男の事故死を契機にして、親しい友人だった語り手が異界との交信ともとれるような、星からのメッセージを聞きとろうとする、それだけの存在になろうとする様が描かれる。
一方、「修道院」はもっと複雑な構成をとる。話者は日本人作家と思われるが、彼が休暇でギリシアのクレタ島に滞在しているとき、ひょんなことから宿の老婆から聞いた物語(当然三人称だ)が再話される。ある意味で「星に…」のヴァリエーションともいえる。しかし「修道院」では、友の死(これは事故ではない)に遭遇した彫刻家である主人公(ミノス)は、贖罪の旅に出る。そして戦争で崩壊したある修道院を建て直すが、彼に救いは訪れない。彼を罪の迷宮から救う「アリアドネ(ギリシア神話で英雄テーセウスを迷宮から救い出すことになる女性)」となるばずだった女性(アダと呼ばれるが、本名はアダマンティアであることがのちに判る。これはギリシア語で「壊しがたきもの、ダイアモンド、鋼鉄」といった意という)は、実は同時に彼のつまずきの石でもあった。舞台は他ならぬ<迷宮labyrinth>の神話のもとであるクレタ島であり、いくつもの神話的寓意を重ねつつ、重層的に語られる。ここで主人公(と読者)は、物語から距離をおいている。「星に…」が一種の静謐な狂気を描いたのに対し、こちらはあくまで<物語・神話>として、あくまで伝聞の話として提示されている。しかしそれゆえに、物語としての深度を備えていて、読み手により深い充足感を与えていると思う。また著者の作としては(おそらく)珍しく、男女の性が直截的に描かれている。「星に…」では異界に足を踏み入れた主人公の、この世とのかそけき架け橋として。「修道院」では、主人公のつまずきをもたらす罪深い淫蕩として、両義的に描かれている。
…少し小難しい解釈を述べたが、とても読み応えのある、良い本です。

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角川書店(角川グループパブリッシング)から発売された池澤 夏樹の星に降る雪 (角川文庫)(JAN:9784041005651)の感想と評価
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