ホットロード [Blu-ray] の感想

​冒頭は4fourのエンジン音。四つのシリンダーの端正な音。丁寧に整備されたエンジンの音だ。もちろん効果音なのだろうがこの音を選んだ監督の耳の良さに感じ入る。つまり荒々しい不揃いな物語ではなく繊細な物語の始まりを予告している。

能年玲奈の和希はハードボイルドだ。自分や自分のダチをコケにする奴はタダでは置かない。毅然として決して屈しない。「カリフォルニア・ドールズ」のピーター・フォーク、「戦場のメリークリスマス」のデビット・ボウイ演ずるセリアズと同じ。
自分は母に望まれなかった子なのかという孤独を抱えているが強面で武装して全世界と対峙している。
だから普通の女の子だと思って声をかけた春山に冷たい態度を取って「二度と来んな」と突き放される。
春山も再婚した母の家庭に居場所を見つけられず独り暮らししている同じ境遇だ。

惹かれ合う2人と暴走族の抗争の物語は大人から見れば、若い日の軽率な行動と一言で片ずけられてしまうものだがこの作品の大人は一人としてそういう非難をしない。それが爽やかだ。

2人の恋と抗争の物語は自分が体験したり見聞きしたりした事がある事だから大人は誰も非難出来ない。自分達もそうだったと苦笑いして懐かしく思い出すものだからだ。

生々しい性愛シーンは無いし暴力シーンも描かれない代わりに美しく切り取られた湘南の空と海と道が、心に沁みる。

最近の少女漫画を映画化した作品の中では、原作をとても大切にした映画だったように思います。漫画のストーリーを全く変えないというのは無理だったのかもしれませんが、そこは映画として上手くストーリーが組み立てられていました。出演者について、能年玲奈さんは紡木たく先生がこの女優さんならとOKを出されたというだけあって、セリフが少ない和希がハマり役だったと思います。私は「あまちゃん」の能年さんを知らないので、特に違和感は感じませんでした。
ホットロードが映画化されると聞いて、一番心配だったのが、春山のキャスティングでした。春山をどうやるかではなく誰がやるかが重要でした。それくらい私にとっても当時のファンにとっても春山は特別な存在です。キャスティングが決まった際は、三代目のボーカルさんかぁという多少の残念感とジャニーズや売り出し中の俳優さんではなかった安堵感が入り混じった複雑な気持ちでした。しかし映画予告を初めて見た時から登坂広臣さんのファンになる位、衝撃的な春山がそこにはいました。原作の春山とは違います。あの軽さというか、おちゃらけはあまりありません。でも、私が大切にして欲しかった春山の静と動のバランスは見事に表現されています。良かったのは、自然なまでの強い眼の表現です。それが登坂さんの演技力なのかどうかはわかりませんが、もう一人の大切な春山が私の中に出来上がりました。紡木先生が春山を登坂さんに指名し、あそこまで登坂さんに惚れこんだコメントを出された理由が分かります。また、二人の演技を周りの役者さんがとても上手く引き上げていました。この作品で色々な賞を受賞されていた主役のお二人がこの先とても楽しみになりました。
もともと少女漫画っぽくない少女漫画だったのもあって、中学生の息子がかなりの衝撃を受けてDVDを何度もリピしていましたので、我が家は購入して正解でした。
余談ですが、この映画ですっかり登坂さんのファンになりましたので、三代目にも注目してます。

★離婚調停中の母と2人暮らしの中学生・和希（能年玲奈）は、どうにもならない挫折感のなかで、家出し、暴走族のリーダー・春山（登坂広臣）と一緒に暮らし始める。
恋愛関係というよりも、お互いが痛みを共有化しているような2人の結びつき。
しかし、春山はそこでも安息できず、暴走族をとるか和希をとるかの選択を迫られた春山は、バイクでさらなる暴走を続けるのであった…。

紡木たくによる名作漫画を映画化した本作は、少女の持つ切実な痛みが胸を打つ青春モノだが、他人との関係に痛みを感じる全ての若者に対して物語はその悩みの解決案を示したり、悩みを悩みのままに提示してくれたりする。

その映画版の出来映えだが、原作の世界観が忠実に再現されているのがすこぶる良好で等身大の青春群像が大いなる共感を呼ぶ。

コレは単なる暴走族のお話を超えた、少女たちの〈癒し〉としての物語であります★。