里の時間 (岩波新書) の感想
参照データ
タイトル | 里の時間 (岩波新書) |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | 芥川 仁 |
販売元 | 岩波書店 |
JANコード | 9784004315117 |
カテゴリ | » 本 » ジャンル別 |
購入者の感想
ゆったりと時間が流れている。写真に写る人々の身体、表情には一人の生の長さではおよそ刻むことができない時間の皴がある。何世代も、あるいは何十世代もの日々の繰り返し、生活の繰り返しが積み重なったような感じだ。これが「里の時間」というものだろうか。
僕は、なぜ今本書が発刊されたのか、わかる気がする。僕は一介の相談援助職だが、都会に近い現場で会う高齢者の時間は猛烈な速さで過ぎていく。どこからきて、どこへ行くのかなぞ、問う間もないほど急激に変化し、死を迎える方も少なくない。僕はたびたびこれでよいのかと立ち止り、ときに自分の老い先と重ねつつ考えこむ。だから本書を読んでいると、ああ、そういう時間の流れがあったんだ、と忘れ物が見つかったような心地がした。
しかし、それは単なるノスタルジーで済まされないことを本書はついてくる。たとえば、あの忌まわしい原発事故(事件)で奪い去ったものが、つまるところ、何だったのか、「里の時間」の尺度でみると、これまであまり語られなかった喪失が浮き立ってくる。被災地ばかりでなく、この国のいたるところで「里の時間」は(あまりにあたりまえだったがゆえに)その意味を忘れられ消えていこうとしている。確かに本書は「里の時間」は、「おまえが考えるほどそんなにやわじやないよ」と言っているのかもしれない。でもやっぱり「いったんなくなったら取り返しがつかないよ」とも言っているのだ。ひるがえって、僕にはどんな時間が流れているのか、と問い始めたらただではすまないだろう。
僕は、なぜ今本書が発刊されたのか、わかる気がする。僕は一介の相談援助職だが、都会に近い現場で会う高齢者の時間は猛烈な速さで過ぎていく。どこからきて、どこへ行くのかなぞ、問う間もないほど急激に変化し、死を迎える方も少なくない。僕はたびたびこれでよいのかと立ち止り、ときに自分の老い先と重ねつつ考えこむ。だから本書を読んでいると、ああ、そういう時間の流れがあったんだ、と忘れ物が見つかったような心地がした。
しかし、それは単なるノスタルジーで済まされないことを本書はついてくる。たとえば、あの忌まわしい原発事故(事件)で奪い去ったものが、つまるところ、何だったのか、「里の時間」の尺度でみると、これまであまり語られなかった喪失が浮き立ってくる。被災地ばかりでなく、この国のいたるところで「里の時間」は(あまりにあたりまえだったがゆえに)その意味を忘れられ消えていこうとしている。確かに本書は「里の時間」は、「おまえが考えるほどそんなにやわじやないよ」と言っているのかもしれない。でもやっぱり「いったんなくなったら取り返しがつかないよ」とも言っているのだ。ひるがえって、僕にはどんな時間が流れているのか、と問い始めたらただではすまないだろう。