21世紀の資本 の感想

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参照データ

タイトル21世紀の資本
発売日販売日未定
製作者トマ・ピケティ
販売元みすず書房
JANコード9784622078760
カテゴリ » ジャンル別 » ビジネス・経済 » 経済学・経済事情

購入者の感想

本書は本文だけで600ページを超える大部だからであろうが、読まずして内容を理解できるという趣旨の解説本がいくつか出ている。
実際、本書の主たる主張はごく簡単に言い表すことができ、本文中で何度も繰り返される。
- 人類の歴史のほとんどの期間において、資本収益率は成長率を上回っている。(つまりr>g)
- r>gであると、富は賃金所得や産出を上回って成長し、持てるものと持たざるものの格差はどんどん拡大する。
事実、20世紀以前には一握りの金持ちと大多数の生活に困窮する庶民で社会が構成されていた。
- 20世紀後半に比較的格差が縮小し、そこそこ裕福な中間層が出現して穏健な市民社会が実現したのは、2度の世界大戦による富のリセット、インフレ、各国の格差縮小的な税政策、歴史的に見て例外的な高度成長の継続、などの要因が重なったためであったが、今や成長の時代は終わりを告げ再び格差拡大の時代に戻ろうとしている。
- 格差拡大を防ぐためには、高度な国際協力と資本に関する情報開示を基礎とした累進資本税の導入が最適な解決策である。

本書によって巻き起こされる議論に付いていきたいだけならこのぐらいの筋を理解しておけば十分であろう。

本書の特色は、多大な過去のデータや実例の紹介によってこの主張に強い説得力を持たせていることと、政治史、文化史まで視野に入れて広い視野から経済史を説いているところである(小説やタランティーノ監督の映画まで参照している!)。
また、数式や概念的な記述の後には必ず具体的な例を入れて理解しやすいように工夫していることも特徴的。経済学の論文などよりははるかに読みやすいが、それでも使われている概念などは経済学のものなのでまったく経済学の素養がない人間にはちょっとつらいかもしれない。自信がない人はマクロ経済学の入門書ぐらいは読んでおいたほうがいいかも。

しかし、読了してつくづく思うのだが、若者の貧困化やブラック企業の問題など、格差の拡大の兆候は日本でも如実に見えてきている。それに対して本書が対抗策として挙げる、国際協力に基づく累進資本税など今の時点では夢物語にしか聞こえない。

「r>g」、「グローバル資本課税」等のインパクトある主張が大きく取り上げられていますが、本書の貢献はそれだけではありません。本書は資産の歴史書であると同時に、マクロ経済学の歴史書、そして著者自身の歴史書でもあります。彼の研究姿勢は今後のマクロ経済学を大きく展開させるかもしれません。

著者のトマ・ピケティは若干22歳でLondon School of Economics及びE’cole Normale Sup’rieureからPhDを取得した後、経済学の本場アメリカのMITで研究員となります。当時の彼は高度な理論研究をしており、「証明を量産する天才」と持て囃されたそうです。しかし彼は2年でアメリカを去ります。その理由について、「でも何か奇妙なことが起こったのだ。私は自分が世界の経済問題について何も知らないことを痛いほど思い知ったのだ。」と本書にあります。

フランスに帰ってからは、トニー・アトキンソンやエマニュエル・サエズといった著名な研究者と共に、資産や課税に関する歴史的データの発掘をしています。それらの研究は数々の論文で発表され、その集大成が本書です。また、本書ではあまり触れられていませんが、彼はサエズと共に最適課税理論の分野で理論研究を続けます。それらの研究は彼の主張である「課税」に関する理論的根拠となるものですが、以前の論文と比べ直感的に理解しやすく示唆に富んでいるように私は思います。

本書でも指摘されるように、「社会科学の女王」と(自称?)呼ばれる経済学は、しばしば「科学的」な分析にとらわれすぎる傾向があるように感じます。
近年のマクロ経済学の理論研究では、動学的最適化や測度論などの高度な数学を用いるのが一般的です。それは多くの場合、「より現実に近い経済モデルを作る」ことや「現実経済の重要な仕組みを明示的に示す」ことを目的に、「経済予測の正確性の上昇」や「重要なメカニズムの直感的・数量的理解」を通じ、豊かな経済分析・政策提言ができるようになることを目指したためです。現実経済は複雑だし、経済における重要なメカニズムも往々にして複雑なため、数学的に複雑化したのです。

資本収益率が経済成長率を上回るため、資本家は益々富み格差は拡大する、そしてこの傾向が今後も続くだろうという分析については、本書の発売前から多くの紹介、書評があり(週刊東洋経済が特集まで組んだ)、それに対する、トリクルダウン効果や資本収益率の低下等アメリカを中心とする経済学者の批判も既に多く目にしている。
そんなおおよその議論を踏まえた上で読者は本書を手に取るだろうから(ただふらっと買ってみるような内容・分量の本ではない)、本書の主要な論点についての意見よりもまず興味深いのは、これほどの専門書かつ大著にもかかわらず本書が各国でベストセラーになったという事実であり、格差に対する知識階級の切実な(こんな分厚い本に手を伸ばすほどの)問題意識の高まりが先進国に共通したものであるという大きな知的トレンドである。
IMFはじめ多くの国際機関が格差が経済成長を阻害するという認識を明らかにしはじめているし、イデオロギーではなく実証的に、かつグローバルに格差の未来を論じ、格差の解消を訴えるピケティの議論が、今後先進国の知的潮流と相まって、大きな国際的な政治的解決を生み出すことができるのか、という点にこそ注目していきたい。
成長によって生まれる格差が成長の持続性を損なうという逆説は、グローバルでの所得や資産への累進課税とそれを可能にする各国の協調によって解決可能なのか(それとも永遠に不可能なのか)、今後遠大な議論が始まるだろうし、私たち先進国の有権者がそのことに無自覚であってはならない。
企業誘致や富裕層移住促進のための低税率をめぐる国家間競争が富の偏重を生み、最終的に地球全体の成長力を奪う。この難題に対して新たな国際的協調の枠組みが必要となるだろう。その議論を前進させるための記念碑的な一冊ではないだろうか。

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