World Order の感想

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参照データ

タイトルWorld Order
発売日販売日未定
製作者Henry Kissinger
販売元Penguin Press HC, The
JANコード9781594206146
カテゴリ » 洋書 » Special Features » all foreign books

購入者の感想

 「古代帝国からウェストファリア体制の成立をへて現代にいたる国際政治の平和の概念を叙述」といったようなコメントにひかれ購入したが、期待外れだった。読者によっては、ウェストファリア体制やウィーン体制についてこの程度の説明でよしとされる人もあろうが。邦文文献だが、岡義武「国際政治史」が群れを抜いて優れている。著者の岡自身が言うように、「国際政治およびその重要な構成単位である諸国家の政治的・社会的・経済的基礎は歴史的各時期を通じて変化してきている。そして、そのことを度外視しては、国際関係の発展過程を真に理解することは困難であると考えられ、」岡の本はそうした概観を理解するのに優れている。キッシンジャーのWorld Orderはそうした関心はみられない。といって、彼にはこのレベルしか書けないなどと言うつもりはないが。

 最後の二章はよい。9章では核兵器の拡散の可能性、サイバーテロ、大衆社会の政治を論ずる。例えばアメリカの大統領選挙では、有権者個人の情報がその個人本人が一々おぼえていないようなことまでが細かく調べられ、コンピューターにインプットされ、この人物の一票を獲得するのにどうした方法が一番いいかと、その個人が操作の対象とされている。個人はそれに気づかず、自己の「理性的判断」を誇る。大統領選挙といっても所詮メディアの競技となり、よくいわれるように選挙資金の量で勝負が決まるようなものだ。
 
 10章では現代国際関係の諸問題を要約する。欧米の地位低下にともない、その欧米が考えだし適用されてきたところの、国際関係を律する概念も通用力が低下したきた。また従来の基本的単位であった国家もさまざまな圧力を受け、従来の秩序形成および秩序維持の能力を失う危険がある。例えばEUは内部で分裂しており政治単位とはなっていない。中東は多くの地域が宗教宗派や部族間の争いで分裂し、相争っている。。東アジアでは何が正統(legitimacy)であるかについて、各国に一致した考えがない。(中国は自分が中心となって東アジアを取り仕切るべきだと考える。)

 筆者は最後の謝辞で、友人との対話で「世界秩序の概念の危機的混乱が現在の根源的な国際問題だ」という結論になったことからこの本が出来たと書いている。

 筆者は、異なる文化と歴史を持つ主要国がそれぞれ描く世界秩序は多様であることを明示した。1国である米国ですら、Monroe, Theodore Roosevelt, Wilson各大統領の時代には異なる世界秩序の概念を持っていた。自由で民主的な国家間の平和というWilson大統領の世界秩序の理想主義的な概念が、今日まで受け継がれていると筆者はいう。

 ここで、米国の世界秩序とイスラムの世界秩序は明らかに不整合で、どちらの一方も他方を敵意ある思想だと見なすに違いないと、読者は気付かされる。民主化による平和への米国の努力が成功した例が、平和的で民主的な日本とドイツだと筆者は例証する。しかし筆者は、IraqやArabの春の国々のように民主主義への必要条件が不充分だった場合の、多くの失敗例にも言及し、米国は世界の自由と民主主義への希求を決して諦めてはいけないが、他地域の歴史と文化の現実をも認めなければならない、という。

 この本は、世界の異なる地域の歴史、文化、世界秩序の概念を明解に啓蒙的に解説している。日本人で非英語外国人の私には、筆者の語彙は大き過ぎる。"leave, clever, stiff, typical"という単語なら私にも分かるのに、筆者は"bequeath, adroit, sclerotic, quintessential"と書く。しかし本書は、世界史と世界秩序に興味がある読者を大いに魅惑し非常に啓発するに違いない。

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