新装版 苦海浄土 (講談社文庫) の感想

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参照データ

タイトル新装版 苦海浄土 (講談社文庫)
発売日販売日未定
製作者石牟礼 道子
販売元講談社
JANコード9784062748155
カテゴリ »  » ジャンル別 » 文学・評論

購入者の感想

 近代日本文学の屈指の作だと思います。

 病気になったキャラクターが
目も見えず、満足に歩けないのに
一人でラジオで聞く野球の真似をしたり。

 病気で震える指で、使い物にならない漁のウキを
際限なく作ったり。

 猫は鼻を支点に回転して、海へ飛び込みます。

 昭和初期の会社の歴史から
病人達それぞれの思い辛身、
高度成長期の資本主義まで
すべてを丸呑みにして
 喉にひっかかりつつ、
都会の文士様にはできない作品です。

 ノーベル賞にならないのは
作中の熊本弁を英訳できないからでしょうかね。

この本を読んで誰かに何か言うとしたら「私は読んでよかった」ということだけだと思う。これまで読まずにいたことを懺悔したいほどの読書体験だった。が、感想や批評の対象にすることが不可能とはいわないまでも非常に困難な内容である。著者と取材対象者と著作物がこれほどまでに一体化して分かちがたく融合した作品をほかに知らない。いわゆるノンフィクションやジャーナリズムではない。私小説でも日記でもない。

著者は、「昭和二八年末に発生した水俣病事件に悶々たる関心とちいさな使命感を持ち、これを直視し、記録せねばならぬというもう動的な衝動にかられ」、故郷の人々が突き落された地獄に自ら降りて行って、そこに留まって憑りつかれたように我を忘れて言葉を紡いだ。世に言う自動筆記の状態で書いたかのような異常な臨場感と、どれだけ悲惨な光景のなかにも通常の人間が見逃してしまうような微かな詩情をくみとる感受性と表現力。日本を代表する公害病、水俣病については教科書で習ったきりでその発生の経緯や被害の詳細については知らなかったというより知ろうとしなかった自責の念と、それを知ることによって湧き上がってくる逃げ出したくなるような恐怖と震えるほどの怒り。読み終えるまでに何日もかかった。目を背けたくなるほどの惨たらしさのなかに織り込まれた一筋の神々しさを前照灯として、なんとか日に数ページずつ読み進めた。

『苦海浄土』を読んだのは,第1回大宅壮一ノンフィクション受賞作品として「文藝春秋」に一部が載ったときでした。1970年ですからもう40年近くも前のことです。石牟礼さんは受賞を辞退していましたが,雑誌に一部が紹介されたのでした。私は大学に入学したばかりでした。第3章「ゆき女きき書」は,かなりの部分が坂上ゆきの水俣弁で書かれた章ですが,石牟礼さんが聞き取った言葉の迫力は尋常ではありませんでした。私はさっそく本を買い,読みました。庶民の暮らしが,その日々の営みがどれほど貴重なものであるかを、感じました。首相だの大統領だのといった人々とは別に,偉い人々がちゃんと巷にいることに感動しました。悲惨な水俣病を描いてはいますが,美しく幻想的な傑作です。それ以後ずっと,この本は私にとってもっとも大切な本のひとつです。高校生くらいの若い人にぜひ読んで欲しい本です。

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