猟奇博物館へようこそ ─ 西洋近代知の暗部をめぐる旅 の感想

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参照データ

タイトル猟奇博物館へようこそ ─ 西洋近代知の暗部をめぐる旅
発売日販売日未定
製作者加賀野井 秀一
販売元白水社
JANコード9784560081860
カテゴリ »  » ジャンル別 » ノンフィクション

購入者の感想

本書は雑誌「中央評論」で連載されたものをまとめた物の様.
図表はそう多くなく,文章による描写が中心.ただ,著者が実際に撮影した写真が複数載っており,もしかしたら他ではあまり見られないものがあるかもしれない(よく知られた対象かもしれないけれど,私にはよくわからない).
副題や内容紹介,先行のレビューでも触れられているように,西洋近代知の「暗部」をめぐる旅として話が展開される.
ただ,個人的にはやはり副題よりも主題である「猟奇博物館」の方が内容に対してしっくりくる気がする.ここで紹介されている「作品」の数々よりも,例えば大英博物館等で展示されている「作品」群の方がよほど「西洋近代知の暗部」を表わしている気がしてならない.

いずれにせよ,本書で紹介されているものは猟奇的に見えるかもしれないが,どこか惹きつけられる作品が多い.こういった意味での「猟奇博物館」に興味があるなら,十分楽しめる1冊であると思う.他方で,猟奇的殺人といったような意味での「猟奇博物館」を期待するなら,本書は趣きが異なる.
元が連載物であったためか,各小話毎にある程度独立し読む事が出来る.就寝前のひとときの読書にはおすすめ.口語調で綴られる為(合わない人もいるだろうが),比較的読みやすいのではないかと思う.

  聖心女子大学の「心」は臓器としての心臓であり、聖なる遺物であるという。また聖者ならぬデカルトの頭蓋骨がパリの博物館に飾られ、ベンサムの頭部のミイラ(写真は必見)も義眼を嵌められて近頃まで展示されていたそうだ。著者はミイラの並ぶシチリアの修道院を訪れては、広場で娘さんと生ウニをたべるといった旅をしながら、論ずるというよりは語りかけてくる。

 「西洋近代知の暗部をめぐる旅」という副題にもあるとおり、西洋近代の合理性に収まらない情念を、この本は暗示している。火葬・土葬は別として、日本人は土にもどるのだろう。もしくは、煙、また雲にでもなるのだろうか。残るものとては情感のうちで薄れていく回想だけのように思う。それに対して、骨・内臓・皮膚という肉体・形骸に執着する西洋の姿は、私には異様なものだった。

 この書で描かれる猟奇の多くは、一見メメント・モリという宗教的側面、人体の分析という科学的側面へと還元できるかのように見える。しかし、読み進んでいくうちにそう単純ではないことが分かる。死体・畸形への好奇、性的な視線、解剖学的な情熱、バロック的な美意識、カトリックの信仰、狩猟民族の本能、そういったものがないまぜになっているのだ。著者はその西洋固有の土俗を溢れるような挿話と写真によって実感させようとする。

著者は知、そして表象を素直に楽しんでいる。衒学的とは言うまい。

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