伝奇集 (岩波文庫) の感想

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参照データ

タイトル伝奇集 (岩波文庫)
発売日販売日未定
製作者J.L. ボルヘス
販売元岩波書店
JANコード9784003279212
カテゴリジャンル別 » 文学・評論 » 文芸作品 » スペイン文学

購入者の感想

"図書館は無限であり周期的である。どの方向でもよい、永遠の旅人がそこを横切ったとすると、彼は数世紀後に、おなじ書物が無秩序さでくり返し現れることを確認するだろう"1940年代発表の短編集である本書は、ラテンアメリカ文学の先駆けとして、あるいは【短い物語で根源的なテーマを描く】著者の魅力が詰まっています。

個人的には、或るトークイベントで本書に収録されている『バベルの図書館』の話になって、恥ずかしながら未読であった事から、ちんぷんかんぷんであった事(笑)また5月は図書館振興の月と、ソーシャルキャンペーン『#図書館に感謝 』を企画している立場として、読んでおかねば!と本書を手にとりました。

まず『バベルの図書館』に関しては『五つの書棚が六角の各壁に振りあてられ、書棚のひとつひとつにおなじ体裁の三十二冊の本がおさまっている。それぞれの本は四百十ページからなる』閉鎖的な図書館を舞台に世界や宇宙、永遠といった幾つもの読み方ができるのに驚きを超えて圧倒されました。(実際に映画『薔薇の名前』やポアンカレ予想、白熱教室にVRと多くの影響を知り、こちらも勉強になりました)

また本書では『バベルの図書館』以外にもプロローグをのぞいて17の物語が収録されていますが。こちらはこちらで、図書館員と無法者、メスとナイフ、病院と酒場といった、一見対照的なシンメトリーさが伝わってきて(特に『南部』)それぞれに面白く。中では『円環の物語』夢そのものに没入させられる様な幻想的な神話性は私的に好みでした。

図書館好き、文学好きな誰かに。また『長大な作品を物するのは、数分間で語りつくせる着想を五百ページにわたって展開するのは、労のみ多くて功少ない狂気の沙汰である』そんな短編好きな誰かにオススメ。

 作家のための作家。もし「小説」(文学)に自分は興味があり、それなりに詳しいと自負するような人であるならば一読はすべきだろう。形而上学的な作品となるので、人によっては哲学書でも読んでるような気分になるかもしれない。

 解説より、
「すなわち神の探求であり、存在の究極的な意味のそれにほかならない。真偽の必ずしも明らかでない博識、シーリアスな象徴体系、知的なユーモア、エキゾチックな背景、神秘的な雰囲気といった、ボルヘスの短編の世界をつらぬく特質」
 とあるが、せいぜい10ページ(20枚弱)ほどの短編の中に、色々な要素が噴出し、物語世界は広がり、収縮する。小説とは、読者の中に現れる一つのイメージだと言えると思うが、ここには確実にボルヘス独特の小説世界がある。

*********

 円環の廃墟は、一般的には芸術家の創作という営為であり、生の探求と反復という隠喩だということだが、一番完成度が高いと思った。

「最初、夢は混沌としていたが、間もなく、いわば弁証法的なものとなった。よそ者は、焼け落ちた神殿にどことなく似た、円形の階段教室の中央にいる自分を夢にみた。黙りこくった大勢の学生が階段席を埋めていた。(中略)男は学生たちに解剖学や宇宙形状額、魔法などを講義していた。」
といった簡潔だが、特殊な文体で、失敗の先の成功、そして終わりという創造の営為が語られていく。

「バベルの図書館」の冒頭、「24つの文字(letter)」の組み合わせとなる所、「24枚の手紙の組み合わせ」となっています。これでは意味がわかりません。もう少しいい翻訳でないとボルヘスがもったいない。

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