昭和陸軍の軌跡 永田鉄山の構想とその分岐 (中公新書) の感想

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タイトル昭和陸軍の軌跡 永田鉄山の構想とその分岐 (中公新書)
発売日2014-07-11
製作者川田稔
販売元中央公論新社
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カテゴリ » ジャンル別 » 歴史・地理 » 歴史学

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『失敗の本質』などこの時代の陸軍に関する本には戦略の失敗を指摘するものが多いが、本書は戦略より更に上の概念である「構想」にスポットをあて、永田鉄山の構想がどのように成立し、石原莞爾の構想とぶつかりながらも武藤章らに受け継がれ、失敗していったかを描いている。あとがきにもあるように、この点に本書の新しさがあり、すでに何冊か関連書籍を読んで知識のある読者にとっても歴史の流れを整理するのに有用である。

第一次大戦をドイツで味わった永田は、必ず世界大戦が再来し、その時は資源と工業がカギとなることを見抜き、「次の大戦で日本がフリーハンドを持つために、満蒙・華北中を経済圏に置いて資源を確保し、工業の発展を促す。中国は統一した戦力がないため簡単に支配できる。この過程では米英とも対立は外交で解決できる」という構想を描く。
永田構想は永田の出世とともに支持者を増やし華北分離工作が開始されるが、彼の急死の後、石原の台頭により足踏みする。
しかし日中戦争の広がりを石原は止められず、武藤ら統制派が陸軍を掌握する。武藤らは永田構想に基づき、蒋介石は「一撃を与え」ればすぐに屈服し、華北を奪うことが出来ると考えていた。だが中国は退却しながらも抵抗を続け、日本にとっては前線がひたすら伸び続ける事態となる。

本来ならこの時点で武藤らは破綻した永田構想を捨てて、新しい構想を立ち上げるべきであったが、「新東亜秩序」「大東亜共栄圏」などの言葉を作りだしてインドシナや蘭印にまで戦線を広げてしまう。状況は破綻しているのに、経済圏確保という永田構想の目標の規模を拡大させた構想だった。更にはインドシナ進出以後に対英関係が悪化したことを受け、ヨーロッパで連戦連勝していたドイツとの同盟を求め「世界大戦でのフリーハンド」という目標も捨ててしまう。
もはやこの時点で武藤らには明確な構想が無かったのだろう。この後はよく知られているように、なし崩し的に対米開戦へと進んでいく。

「永田が生きていれば」というifで語られることが多い永田鉄山であるが、それは彼を否定できなかった後継者たちへの幻滅を元にしているのかな、と読みおえて考えた。

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