スターリン - 「非道の独裁者」の実像 (中公新書) の感想

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参照データ

タイトルスターリン - 「非道の独裁者」の実像 (中公新書)
発売日販売日未定
製作者横手 慎二
販売元中央公論新社
JANコード9784121022745
カテゴリ »  » ジャンル別 » ノンフィクション

購入者の感想

本書は「はじめに」で現代ロシアではスターリンの人気が意外に高いという事実を紹介している。スターリンはジョージア(グルジア)出身なのであるが、私も最近ジョージア人と話す機会があり、スターリンを評価する人物も多いという話を聞いた。本書は、スターリンの功罪を記載することで、なぜ「非道の独裁者」と従来考えられているスターリンがロシアでは人気があるのかを推察する内容になっている。
第1章「ゴリの少年」、2章「カフカ―スの革命家」、3章「コーバからスターリン」はスターリンの生い立ちから若き日の活動が少ない資料と新資料を掘り起こし、丁寧に解説し、これまでの後のスターリンから推測したような少年時代像とは異なる科学的な評価をしていて本書の中ではもっとも充実した内容。ここまでスターリン自身が書いた詩なども紹介される93頁は、スターリンの実像に迫っている。
これ以降、表舞台に登場するスターリンについては、その死までを重要な事件をカバーしながら駆け足で記載。それにも関わらず、教科書的な記載が羅列されているだけではなく、非常に読みやすく初学者にも楽しめる内容。20世紀のソビエトの歴史の優れた要約であり、末尾の索引と年表も重宝で、レファレンス替わりに使える。この部分は、スターリンがソビエトという国を発展させるためにやったことと、その犠牲と誤りについて歴史的な評価はバランスがとれており信頼ができる。一方で、スターリン自身の言葉については記載が少なく、当時、スターリンが何を考えていたのか、どういう人物であったのかは、彼が関連した事件から推測するしかない点は物足りない(若き日のスターリンよりは情報が多いはずなので、表舞台に出て来てからのスターリンについて、もう少し人物像を浮き彫りにしていくことが可能だったのではと思われる)。以下にそれぞれの章で興味深い記載を抜粋する。
4章「ロシア革命と内線」。“第一次世界大戦で帰還することのなかった軍人が285万、非軍人が44万で、これはロシアが第一次世界大戦の交戦国の中で最も多くの犠牲者を出した国であったことを意味するp96”

 ヒットラーに、意表を突かれてドイツの大軍が燎原の火のごとくソ連に攻め寄せてきたときには、スターリンは大粛清(党幹部から軍上層部)からわずかしか時を経ていない時期であり狼狽したようである。
 初戦ではドイツ連合軍に押されるままであったがスターリンも立ち直りが早く側近であったノモンハンで活躍したジューコフをレニングラード方面軍総司令官に任命し、スターリンは総指揮官としてモスクワを死守し辛くもドイツ軍を押し返したのである。
 初戦での惨敗はスターリンの油断であり責任であつたのは明白であるにも関わらず、「戦わずして敗れた前線の軍人たちの責任だ」と決めつけ西部方面司令官たちをモスクワに召喚し処刑してしまったのである。
 冷酷で狡猾なスターリンも狼狽したドイツ連合軍侵攻であったが、ソ連が勝利した英雄としていまだに多くのロシア人にスターリンは人気があるようである。(批判的なロシア人も多くいるのだが・・・)
 大戦が終った時に、「赤軍がヨーロッパ戦線で乱暴狼藉を働いた」と追及されたスターリンは「前線の兵士にも多少の慰安がなければ・・・」などと応えたそうである。
 評者が、かって読んだ鹿島茂著『セーラー服とエッフェル塔』という本でドイツでの赤軍の行ったレイプを調査した資料を読んだときのおぞましい記憶も蘇ってしまった。
 著者は、本書のタイトルに「非道な独裁者」の実像と謳いながら、巻末でスターリン評価を「読者にゆだねる」などと書き終えているから評者は拍子抜けしてしまった。
 スターリンは、間違いなくヒットラーなど足元にもおよばない「非道の独裁者」であったことは、 クリヴィツキー著『スターリン時代―元ソヴィエト諜報機関長の記録』という書で明らかにされているから本書と併読することをお勧めしたい。
 クリヴィツキーは、スターリンの諜報機関長として非道な仕事にかかわったが、亡命してから書いた『スターリン時代―元ソヴィエト諜報機関長の記録』は、信憑性がある書であることが認められています。

著者は「はじめに」において、「本書はスターリンを通じてロシアという国を理解し、ロシアという国を通じてスターリンを理解しようとする試み」であると、そのコンセプトを示唆している。その動機として「スターリンを底知れぬ悪行と非道を繰り返した独裁者」であると理解する、言わば従来の評価を示した上で、「これとまったく異なるスターリン像……今なおロシアにおいて少なからぬ人々がスターリンを敬愛し、優れた指導者として信奉しているという事実」の存在を摘示し、ロシア人研究者の「ロシア史における彼の役割について肯定的に評価する声と否定的に評価する声が拮抗している」との弁を紹介する。またロシア国内の世論調査なども挙げながら、ヒトラーとの相違も強調している。かかる昨今のロシア国内におけるスターリン評価を前提にした上で、本書は従来のスターリン研究・評価に拘泥せず旧ソ崩壊後の種々の公開資料を取り上げて、良く言えば中立的にスターリンの生涯・事績を綴るものである。端的にはスターリンの伝記であり、構成・内容はこのページの上の「商品の説明」及び「登録情報」の最下段「目次を見る」(クリック)に譲る。

前叙のロシア国内の昨今のスターリン評価の動向、世論調査などの客観性・信頼性は別論として、スターリンと言えば、レーニン同様に都市名にその名が用いられた経緯があるも、“レニングラード”は旧ソ連崩壊後ながら、“スターリングラード”はスターリン死後のフルシチョフ時代に改名されている事実が注目される。本書でも言及があるが(284〜286頁)、スターリン死後に実権を掌握したフルシチョフは、スターリン批判(「個人崇拝とその帰結」ー1930年代の大粛清、WW2期の失敗、個人崇拝など)を行っており(政治犯などの恩赦・釈放も含む)、いわゆるスターリンの“恐怖(独

 スターリンの人となり、行動等をその時代のロシア・ソ連の状況と重ねて詳しく書いていて、ちょっと読みにくいところもあるけど勉強にはなる。
 全体的に、スターリンというものを否定的な眼ばかりで見られない、その証拠、というものを多く書いているようにも思われる。
 たとえばトロツキーと比してロシア革命時の実績に欠けると思われていたスターリンだが、そんなことはない、というふうに書かれている。
 少々スターリンに対する評価として甘いのではないか、とも思われる。だから星は三つにした。

1968年のパリ五月革命の時、反スターリズムは自明の前提であり、日本でも反帝反スタは新左翼だけでなく左派系人士に広く共有されていた。レーニンはまだ選集が出、マルエン全集は補巻が新たに刊行されるのを横目にスターリン全集はすでに古本屋で二束三文となっていた。本書は独裁者スターリンの政策と論理を理解と同情をもって内側から描くことに努めた本である。だから本当は50年前に出るべきものだった。

もはや歴史となったソヴィエト連邦を1918年1月6日憲法制定議会解散から1991年12月25日連邦共和国の独立までの74年間とすると,スターリンの関与した期間が1953年3月までの35年間であるのに比べ、スターリン後の時代は39年間でこちらの方が長いのにもかかわらずソ連を代表する指導者はスターリンを置いて無い。世界史上のソ連の意義はヒトラーの世界支配の野望を挫いたことだが、第二次世界大戦中ソ連を指導したのがスターリンだからである。ファシズムから世界を救った功績は正当に評価されているか。暴君スターリン像を是正して公正な肖像を描き出そうとするあまり、暴虐ぶりを伝える既述は淡々としたものである。[強制的な食糧徴収で] 「飢えて死んだ者の数はーー四百万人から五百万人ーーと推測」(190-1 頁)。「1936年から1938年までの間に政治的理由で逮捕された者は134万人余に達し、そのうちの六八万人余りが処刑された」(203頁)人名索引にソルジェニーツィンの名もない。しかし本書は告発の書でもなければ、総括の書でもない。スターリンは間違っていた、ではどうするのが正しかったのか。読者は常に自問することになるが、著者はスターリンの個人史に沿ってさまざまな端緒を示してくれる。新集版スターリン選集が欲しくなるのだから著者の狙いは達せられている。個人的には縦深を生かして最終的に勝利した蒋介石(および漁父の利を占めるかたちになった毛沢東)についても同じ手法が有効であるように感じた。

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