正妻 慶喜と美賀子(上) の感想
参照データ
タイトル | 正妻 慶喜と美賀子(上) |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | 林 真理子 |
販売元 | 講談社 |
JANコード | 9784062185240 |
カテゴリ | 本 » ジャンル別 » 文学・評論 » 歴史・時代小説 |
購入者の感想
(本レビューは、上巻のみ読了時に書いたものです。下巻レビューは、上巻と☆が異なることもあり、下巻のみの内容でレビューしています。)
本書は、最後の将軍となる徳川慶喜に名門公家の一条家から嫁した正妻・美賀子を主人公とした一冊。
慶喜は、幕末を舞台とした歴史小説では維新群像の引き立て役、下手すりゃ仇役として扱われ、彼を主人公とした山岡荘八、司馬遼太郎の作品でも維新群像のような爽快な描かれ方はされていない。
まして、美賀子となれば、管見の限りでは、大河ドラマ「徳川慶喜」で石田ひかりが演じたのを覚えている程度。さてさて、それを林真理子がどう描くのか、正直1度は買い控えたが、一旦読み出したらもう止まらない勢いの出来映え。
著者は、既に「源氏物語」を題材とした作品において、田辺聖子や瀬戸内寂聴らの先達女流作家に伍する、新たな源氏世界を描いているが、本書に先立つ女流作家の作として宮尾登美子「天璋院篤姫」有吉佐和子「和宮様御留」の向こうを張った、著者ならではの新たな幕末を生きた女性像を見事に描き出している。
タイトルでも「女流作家」という言葉を使ったが、この多分に女性蔑視も含んだ言葉を著者が好んでいるか浅学にして私は知るところではないが、それこそ山岡、司馬以来の男性作家が描く男の歴史とは違う視点や描写で、それに勝るとも劣らぬ作品を著してきた作家を、私は敢えて「女流作家」と讃えたいし、その点で、著者の腕前はこれまでの様々な著作で積まれた研鑽が見事活かされている。
本書は、美香子ら慶喜に関わる女性たちの一人称・目線で描かれている。幕末動乱の歴史はボンヤリとしか触れられないが、それこそが彼女達の目線であり、作品の基軸となっている。そして、五感で感じられる京の公家達の暮らしや言動、一人の女として感情に奔走されるままの心の動きなどは、実に心に伝わるもので、敢えて言えば著者らしい洒落た俗っぽさが見事に本書の世界を包んでいる。
上巻では、美香子が歴史そして慶喜の正妻としての運命に呑み込まれていく中で、慶喜の女としてむしろ世に知られた新門辰五郎の娘お芳のくだりまでが描かれている。作品世界に包まれるように読み進めており、下巻も一気に読んでしまいそうだ。
本書は、最後の将軍となる徳川慶喜に名門公家の一条家から嫁した正妻・美賀子を主人公とした一冊。
慶喜は、幕末を舞台とした歴史小説では維新群像の引き立て役、下手すりゃ仇役として扱われ、彼を主人公とした山岡荘八、司馬遼太郎の作品でも維新群像のような爽快な描かれ方はされていない。
まして、美賀子となれば、管見の限りでは、大河ドラマ「徳川慶喜」で石田ひかりが演じたのを覚えている程度。さてさて、それを林真理子がどう描くのか、正直1度は買い控えたが、一旦読み出したらもう止まらない勢いの出来映え。
著者は、既に「源氏物語」を題材とした作品において、田辺聖子や瀬戸内寂聴らの先達女流作家に伍する、新たな源氏世界を描いているが、本書に先立つ女流作家の作として宮尾登美子「天璋院篤姫」有吉佐和子「和宮様御留」の向こうを張った、著者ならではの新たな幕末を生きた女性像を見事に描き出している。
タイトルでも「女流作家」という言葉を使ったが、この多分に女性蔑視も含んだ言葉を著者が好んでいるか浅学にして私は知るところではないが、それこそ山岡、司馬以来の男性作家が描く男の歴史とは違う視点や描写で、それに勝るとも劣らぬ作品を著してきた作家を、私は敢えて「女流作家」と讃えたいし、その点で、著者の腕前はこれまでの様々な著作で積まれた研鑽が見事活かされている。
本書は、美香子ら慶喜に関わる女性たちの一人称・目線で描かれている。幕末動乱の歴史はボンヤリとしか触れられないが、それこそが彼女達の目線であり、作品の基軸となっている。そして、五感で感じられる京の公家達の暮らしや言動、一人の女として感情に奔走されるままの心の動きなどは、実に心に伝わるもので、敢えて言えば著者らしい洒落た俗っぽさが見事に本書の世界を包んでいる。
上巻では、美香子が歴史そして慶喜の正妻としての運命に呑み込まれていく中で、慶喜の女としてむしろ世に知られた新門辰五郎の娘お芳のくだりまでが描かれている。作品世界に包まれるように読み進めており、下巻も一気に読んでしまいそうだ。