本書を読むとやはり『三国』を買うかという気になる。

辞書にはひみつはつきものである。
A辞書はB辞書の大半を剽窃しているとか。
C辞書の編集主幹は名前だけで実質的には何も仕事をしていないとか。
しかしここでいう「ひみつ」はそういう暴露的なひみつでなく「ユーザーにはわからない定義・語釈にまつわるひみつの苦心談」である。
これを一般論でなく、
個々の例を挙げて説明している。
例えば、
「…あまり頻繁に酒場に足踏みしないようになさったら…」の「足踏みする」である。
これは普通には「進まないでその場で足を踏む」の意である。
「足を踏み入れる」の意で『三国』に入れたのは６版からであるが「酒場に足踏みする」のように肯定形で入れてしまったので、
７版では
足踏み[古風]あしをふみ入れること「酒場に足踏みしない」
のように否定形にしたという。
実に綿密な観察である。
[古風]というのも効いている。
少納言（現代日本語書き言葉均衡コーパス）には「足を踏み入れる」の意の「足踏みする」の例は一例もないからである。

本書を読むとやはり『三国』を買うかという気になる。