これは伏見つかさの作った「俺の妹がこんなにかわいいわけがない」ではない

まず，伏見つかさの作った「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」を堪能したいのであれば
作者自身が書いた原作，もしくは作者自身がテキストを作成したＰＳＰ版を手に取るべきである．

もし，「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」と同名のツンデレ妹と中二病後輩の出てくる
ラブコメアニメーションを堪能したいのであれば，この作品はオススメである．
なぜなら，最高のスタッフ，キャストが作りあげた可愛らしいアニメーションであるからだ．

以下に，私がそう考える理由を書く．
私は，伏見つかさの「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」という作品は，
10代という若い主人公達が壁にぶつかりながらも成長していく物語，であると考える．
「仕方ない事なんて一つもない」と言い切っていた主人公は，自らの無力さに打ちひしがれながらも前に進もうとする．
「好きなんだからしょうがない」と言い切っていたその妹は，自らの希望と社会との折り合いをつけながら前に進もうとする．
「無理なことをする必要はない」と言い切っていた幼馴染は，自らの持てなかった「無理をしてでも押し通したいこと」に直面する．
その他の登場人物たちも，それぞれの壁にぶつかりながらそれを乗り越えていこうとする．
伏見つかさが書いた原作もしくはＰＳＰ版では，この登場人物達の成長がつぶさに描写されている．

その成長の過程として，伏見つかさは社会的にタブーとされる近親相姦をテーマとして掲げる．
そこまでやるか，と読者に思わせる著者の胆力に私は震えた．
恐らく作者自身も批判に晒される自覚はあるだろう．
それでも，直球で，全力で物語を描き切った伏見つかさに私は感謝したい．

対してアニメ版はどうだろうか．
それぞれのキャラクターの成長をカットし土台無理な話数に物語を詰め込んでいるように私は感じた．
可愛らしいキャラクター達がクルクルと動き回る本作を見ながら，
このアニメ版は一体何を描きたかったんだろうか，と心底疑問に思ってしまった．

「Animation No.1」の名を冠した制作会社A-1