これは漫画でも小説でもない。ひとつの演劇だ。

この本に描かれている世界を理解できるひとと全くできないひととがいる。
ここのレビューの評価がハッキリ二分しているのはおそらくそのためだろう。


夢に向かって進んでいるひとにとって、
この本に書いてあることはきっとどうでもいいことだ。
読むだけ時間の無駄だと思うだろう。
しかし、
もし書店かコンビニで見かけることがあればぜひ手にとってみて欲しい。
たった五分で流し読みできる。
もし何か心に響くところがあったら、
買って帰ってもきっと損はないだろう。
この先、
夢を見ることを忘れそうになったときに、
きっとこの本は力になるに違いない。


夢やプライドを持ったことがないひとは、
おそらくこの本に書かれていることの意味がわからないだろう。
この本は買ってはいけない。
まず間違いなくお金の無駄だ。


若い頃に抱いていた夢の大半が潰えてしまい、
今は日常に押し流されて夢を見ることを忘れてしまっているひと。
この本の素晴らしさがわかるのは、
きっと世の中の大多数を占めるだろうこんなひとたちだ。
読み進むうち、
自らの若き日が走馬灯のように脳裏に蘇り、
思わず涙があふれそうになるだろう。
何を隠そう私はこのタイプである。


私は、
この本に出会うまで水野敬也が何者かも知らなかったし、
あまり上手いとは思えない鉄拳の絵もあの気味の悪いコスチュームも好きではなかった。

ところがある日、
新聞広告でこの本を知り、
迷わずアマゾンで購入した。
本の一部が広告に公開されていたのだが、
そのストーリーが自分の人生と重なるように思えたからだ。
読み終わってみると、
広告で公開されていたのがこの本の大半の部分だったのだが、
ちっともそのことに不満は感じなかった。
この本のキモはそこにはなく、
最後の部分にあるからだ。


この本のテーマは夢と人生。
若き日に夢を捨てた主人公が、
年老いて何に気づいたか? そして最後に叶えた夢とは？

鉄拳のシンプルな絵とその間合いが織りなす独特の空間は、
たったひとりの観客である私のためだけに行われている演劇のよう。
静かにドラマは流れていく。
そしてラストへ。