「戦時中に書かれた」にこだわり過ぎないこと。
一部のレビュアーに戦時中の発行であることと、
本文の最初に「司馬遷は生き恥さらした男である。
」と書かれた
ことにこだわりを持ち、
全体を平静に読み通すことなく、
筆者の書こうとしたことを受け止めきれていないと感じる。
(私が行間を読み取れていないのかもしれないが…)
確かに戦中に書かれた著述ではあるのだが、
版を新たにする毎に武田氏は序文を書き加えていて、
やはりそこに
本人が意図したものが記されていると考えるのが妥当だろうし、
本文を通読すれば序文で筆者が書いたことが
伝わってくるし、
あまり外れてはいないと思う。
昭和17年12月、
昭和23年6月、
昭和27年6月、
昭和34年1月、
昭和36年2月(平凡社:世界教養全集第18巻
に収録)の序文5回分を読んでいるが、
この本の背景は著者本人の初版の序文に書いたことにつきると思う。
ー「史記」について考え始めたのは、
昭和12年出征してからである。
はげしい戦地生活を送るうち、
長い年月
生きのびた古典の強さが、
しみじみ身にしみて来て、
漢代歴史の世界が、
現代のことのように感じられた。
歴史のきびしさ、
世界のきびしさ、
つまり現実のきびしさを考える場合に、
何かよりどころとなるものが「史記」
には有ると思われた。
わずかな暇に読みふける度、
司馬遷の世界構想の、
広さ深さに、
ますます驚かされた。
ー
武田氏はこの「史記における司馬遷の世界構想」に、
全力でぶつかり、
この著述に結実させた。
立体的・空間的な連関を意識させる司馬遷の構想力の大きさの指摘が、
本紀、
世家、
表、
列伝の各々の関連の
意義・意味を通じてなされるが、
今まで岩波文庫で個別に読んだ「史記」世家・列伝の姿が違って感じられると同時に
正史が確か20いくつかあっても「史記」のように読まれないのは、
司馬遷が史記において全てを書き尽くしてしまい
(=人間のいとなみ全てを)その後の史書が史記を超えられないのだとこの本を読んで感じる。
史記を読んだら、
この本もどうぞ。
良書。
(史記を読んだ後に思索を深める為の本で、
司馬遷や史記の入門書・ガイドブックではないので注意が必要です。
)
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