大したもんです！

　下巻になると、
確かに新鮮さが減じ、
その分感動も薄まるが、
肝に銘じて、
と思う言葉は、
随所にある。

　先ず「人の痛さが分かる人間」、
これは俳優になるには、
する以外にない「努力」として綴られる（１３１頁）。
何も俳優になる、
ならないに関わらず、
人間全てに通じることですよね。

　また戦後の様相を綴る件には、
「敗戦によって、
女がはじめて男の正体というものを識った」（１６頁）。
切れ味抜群。
それも「知る」のではなく、
「識る」のである。

　更に個人的には余り好まないが、
「運命というものは、
こちらがボンヤリ居座っていて、
あちらさんから一方的にやって来るものではなく、
こちらさんが積極的に切り開いていくものだ」（１８６頁）。

　何れも５歳から「学校へもロクに通えぬ」俳優一筋の人生から絞り出された言葉。
有無を言わせぬド迫力がある。

　至言は、
上巻にも。

　「人間は一人では生きることも死ぬこともできない哀れな動物だ」（１９３頁）。
「死んでから起きあがって自分の墓にまで歩いて行って無事におさまるというわけにはいかないから、
死んだあとにもやはり他人の世話になるのだ」。

　「苦労は苦労のためにするのではなく、
明日という光明に向かっての下塗りだと思わなければ、
とてもじゃないが無数の『恥』をブラブラぶら下げて生きてなどゆけるものではない」（２７６頁）。

　等々。