人間に対する宮本輝の深い愛

「人はそれぞれの人生の主人公」そんな言葉が頭に浮かんだ作品です。

話中でも、
主人公が誰なのか、
わからない感覚を漂わせて物語は進みます。


思いのすべてを注ぎ込んだこだわりの家、
そんな家にほとんど住むことなく、
突然交通事故死してしまった父。
そんな父の死後すぐに受け取った見ず知らずの少年からのラブレタ−。

氷見留美子が、
父の死後住むことなく放置された家に戻って、
成人した少年と再会し、
人生の輪は大きく動き始めます。

彼女の周囲の人々、
とりわけ少年本人よりもその父である上原氏の存在が、
本作品では大きな流れを作ります。


上原氏、
彼の生きてきた時代、
感性、
それらを抜きにしたら本作品の魅力は語れません。


東京、
京都、
横浜、
岡山、
長野、
北海道、
そして台湾と登場する土地の魅力も読者を捉えて離さない要素の一つです。


存在感でいえば、
留美子の弟や友人の小巻、
上原の女友達である料亭の女将など、
誰が主人公であっても豊かな物語が紡げそうな魅力溢れる登場人物がそれぞれ彩を放ちます。


一所懸命生きる人間への、
作者の深い愛情をあらためて感じる作品でした。