何事もなく新しい家族を迎えられる喜び

目から鱗が落ちた。

母親が健康に気遣ってさえいれば、
無事に出産を迎えて
当然だと思っていた。

逆子や早産の大変さ、
その程度の知識しか持ち合わせて
いなかった。


出産時に突如として母体を襲う異変、
急性疾患。

母子ともに無事を前提とし、
最善を尽くす産婦人科の実情が
インフォームド・コンセントも含め、
これほど緊迫したもの
だとは思いも寄らなかった。


劇中には、
産まれて間もない赤ちゃんが幾度となく登場し、

時に痛ましく、
重苦しい描写も挿入されるが、

「命の尊さ」と同時に、
「命を迎えることの難しさ」を
限りなくリアルに伝える真摯な映像に深く感じ入った。

新米医師がナレーション風に、
病状と術式を図解付きで
説明してくれるのも、
非常に分かりやすく為になった。


生まれつき体が弱く、
永くは生きられない新生児。

酸素チューブや点滴が小さな体を這う痛々しさ。

初対面のあの瞬間、
私は
「元気に産まれて来てくれてありがとう」と言えただろうか。

母親を労い、
満面の笑みで当たり前のように自己紹介した
だけだったのではないか。


また、
本作でも取り上げているように、

産まれ持った環境によっては、
様々な苦悩を背負わせてしまう
ことにもなりうる。

目を瞑ったまま、
差し出された指先を力一杯握りしめる無垢な
愛くるしさを見ていると、
迎える側の心構え、
親として成長を
見守っていく重責を再認識させられる。


普段は目尻を下げ、
穏やかな口調で患者と接する鴻鳥サクラ。

手術衣を着用すると、
命を繋ぐ決意が目に宿る。

原作コミックに忠実な綾野剛の役作りには、
予想以上に
惹き付けられた。